希望の愛-9
ざざー………ざざー………
僕の目の前でドミノ倒しのよいに波が打ち寄せている。
「………海?」
「そう」
「…………なんでまた?」宮崎は答えなかった。遠く水平線を眺めているようだった。しばらく沈黙が続いき宮崎がその沈黙を破った。だいたいいつも宮崎から話し始める。
「好きなの」
「………え?」
「お兄ちゃんが大好きなの!あの恋は忘れられない!もう1度愛されたい!」
「おい………何言ってんだ?」
太陽が僕たちを照りつける。それはスポットライトのように僕たちを別々に照らしているようだった。
「ごめんね………希望君」「いや………ただお兄ちゃんっておれ……じゃないよね?」
僕たちが立っている砂浜には他にカップルがぱらぱらいる。僕たちとは違い座って寄り添っていろいろとささやき合っている。
宮崎に目を向けると泣いているのに気が付いた。
「おい!どうしたんだよ!」
宮崎は顔を手で覆い泣いていた。左手の小指には指輪をはめていた。唯一のアクセサリーだ。
宮崎が泣き止みゆっくりと話し始めた。
「あたしね、お兄ちゃんがいるの、7歳離れた」
7歳差ということに強く反応してしまう。
「歳が離れていた分よく可愛いがってくれたわ。遥、遥、っていつも私の相手をしてくれてね。で、私が小学校の高学年のときかな、お兄ちゃんが好きなんだって気づいたの。もちろんいけないことだって知ってたわ。でも止められなかった。どうかしてるわよね」
「そんなことねぇよ。好きなもんは仕方ねぇよ」
僕は心から言った。
「……そ。でねまぁなんとか気持ちは抑え続けて生活を送ってきたわ。今までと変わらずにね。でも去年ね、忘れもしない去年の今日。結婚するって打ち明けられたの」
僕は自分のことのようにショックを受けた。―自分のことのように―
「ショックだったわよ、だいぶね。だいぶなんてもんじゃないわね」
「………で、はる………宮崎の兄貴がおれに似てたとか?」
宮崎は振り返って小さくごめんと言った。 僕は何と言っていいかわからなかった。
「本当馬鹿よね、あの恋以来好きな人ができないなんて。後遺症かしらね」
「おれは?」
「希望君は……お兄ちゃんを重ねて見てたから」
「じゃあのレストランとか今日とかのも兄貴と重ねてみたとか?」
「そ、お兄ちゃんに連れてってもらってね。呼び方なんてお兄ちゃんそっくりだったわ」
「そっか………」
「…………責めないのね」「え?」
「自分のことを好きでもないのに告白されたり、デート頼まれたりしたのに」
僕は少し考えた。
「本当に人のことを好きになるってのは仕方ないことだと思うんだ、モラルとかなんて関係なく。宮崎がもつ気持ちも大事にした方がいいと思うし。いい加減かもしれないけど、宮崎なら兄貴を超えるいい人が現れると思うよ」
宮崎は小さく泣いていた。「そうね…………ありがとう。本当に。希望君に出会えてよかった」
帰りの電車宮崎は僕の肩に頭を置いて寝てしまった。―こんな可愛いのに叶わない恋をしてるなんて―
僕は複雑な気持ちだった。あんな偉そうなことを言ったものの、宮崎が兄貴を忘れられる保証なんてなかった。僕が付き合ってあげた方がためになるんじゃないかと考えた。―お互いのため―