希望の愛-2
「あ、私は小嶋愛ですー。よろしくねー」
人を馬鹿にしたように話し方は遅かった。
「あ、あなたが。僕は渡辺希望です」
「希望?いい名前ねー」 「ど、どうも」
小嶋さんが微笑みながらそう言ってくれたので僕ははにかむしかなかった。
「でも、よかったー。あなたがご飯作っててくれてー」
僕は言ってることがわからなかった。小嶋さんは僕の気持ちを察したのか、続けた。
「私、料理なんてできないからー」
「そうなんですかー。そういえばあの荷物は?」
「え?あー、私のだったー。面倒くさくてそのままにしちゃってたー」
このきれいな可愛い顔の下にはなかなか強烈なキャラが潜んでいそうだと思った。まさか………
「あのー………僕は小嶋さんの料理もつくった方が…………?」
「あらー、悪いわねー」
僕はつくるとも言ってないのに、小嶋さんは満面の笑みで答えた。
―この笑顔が見れりゃ文句はねぇか………―
なんて情けない結論に至ってしまった。
材料は1週間に1度の買い物でいいように買いだめしておいた。なので少し量を多くするぐらいならわけはなかった。
「おいしそうにできてるわねー」
「そうですか、それは良かった」
「じゃいただきまーす」
僕と小嶋さんは食べ始めた。一口食べて小嶋さんはとても大きな声でおいしいと叫んだ。下手ではないと思っていたが、ここまで言ってくれるとは。半分ぐらい食べたところで小嶋さんは聞いてきた。
「なんであなたみたいな学生さんみたいな人がここに住んでるのー?」
僕はばかな親たちのことを話した。小嶋さんはふーんとだけ言った。
「私はねー」
質問もしてないのに答えはじめた。
「家を追い出されちゃったの」
「え!?」
「あ、そんなひどい意味じゃなくてね。あなたもなんとなく気付いたと思うけど私、何もできないのよ。家事はとにかく何も。だから就職も決まったことだし、一人暮らししろって。でも本当に一人じゃ生きていけないと思ってここに来たの」
のーんびりと、ほほえみながら話しているがけっこうすごいことを話してると思った。
「あなたみたいな人がいてくれて、よかったわー」
僕はどきっとした。こんなきれいな女の人にそんなこと言われたことなんてない。
「そうですかそれはよかった」
僕は照れを隠すため早口で言い2人ぶんの食器を流しまで運び洗い始めた。
「食後はコーヒーがいいな」
「……………はいはい」
何度も言うようだがこんなきれいな人に命令されたらその通り動いてしまう。
食後のコーヒータイムも終わり部屋に戻ることにした。
小嶋さんが帰りぎわに
「お礼は、今度するわねー」
ときたもんだ。天に昇る気持ちで帰っていった。
ここで暮らしてから少し経ち―毎日僕が小嶋さんの夕食をつくった。お礼はまだない―学校で新任の先生の紹介があった。名前が読み上げられる。
「…………北原夏さん、数学科。倉持波さん、国語科。小嶋愛さん、校医さんです。仲川雪さん…………」―小嶋さんと同姓同名じゃん―
僕は心で笑った。
―あの鈍ちんが校医なんか勤まるわけねぇよな―
新任の人の紹介が終わり教室に帰り、授業が始まる。