希望の愛-10
僕たちの街の駅につき宮崎を起こす。宮崎は顔を赤らめごめんと言った。そのごめんはさっきのものとは違った。
駅前ロータリーに出て宮崎と別れる。別れ際、宮崎はこれからも友達として付き合ってくれと言ってきたので、快く承諾した。
宮崎が見えなくなるまで見送って振り向き歩き出す。3歩ほど歩きすぐ立ち止まった。
―やっぱ嘘かよ………―
小嶋さんがあの男の乗った車から降りてくるところだった。
僕は声をかけられなかった。小嶋さんが車を見送り歩き出そうとしたとこれでやっと声が出た。
「小嶋さん……」
「あらー、希望君。買い物行っちゃったのー」
「違うよ、出かけてたんだ」
「あー、よかったー。じゃ早く帰りましょ」
「待てよ、なんだよ今の」「今のってー?」
普段は愛しいおっとりしたしゃべり方もこういうときはいらつかせる。
「あの男とドライブデートでもしてたのかよ」
「……え?あー、違うわよー」
小嶋さんは笑って否定した。
「じゃなんなんだよ!」 「わかったわ、事情は後で話すから早く帰りましょうよー、時間がないわ」
宮崎のことを思い出す。好きな人を奪われることを。「………おれじゃだめなのかよ」
「えー?声小さいわよ?」「おれじゃだめなのか?やっぱあの男の方がかっこいいか?歳が近いからか?おれの方がよっぽど小嶋さんの近くにいるだろ!おれの方が小嶋さんが好きだ!」小嶋さんは黙って聞いていた。
「………なんか言えよ」
「早く帰りましょ」
僕は心でがっくりした。―聞き流すってか?―
なんと僕はリビングのテーブルに座っている。そして小嶋さんが台所にいる。
「なんだよー、料理たたき込んでもらってたのかよ」「初めての日に言ったでしょ?お礼は後でするって」そんなこと言ってた気がするがすっかり忘れていた。
テーブルの上にはカレーが並べられた。
「目には目を、カレーにはカレーよー」
嬉しそうに言った。
「これが生涯初のソロ料理ねー。さ、食べて食べて」「いただきます………」
僕は一口ゆっくりと味わい食べた。
「………上手い、めっちゃ上手い!」
「そ、よかったー」
小嶋さんはほっとしたようだった。
「手作りとは思えない!」「手作りよー。これねー、あなたの味なのよ」
「え?」
「私が本当おいしいって言ってもあなたは普通だって言うでしょ?でもこれがあなたの味」
「そーなんだ……」
自分で言うのもなんだが、こんな上手いものをつくってるとは知らなかった。
僕はあっという間に完食した。
「宮澤さんにお礼言わなきゃー」
「宮澤さん?」
「私に料理を教えてくれた方よー。友達の彼氏さんなのー」
僕は今になってあの告白を思い出した。水に流したかったが思い切って言ってみた。
「その宮澤さんと別れたあとおれが言ったこと覚えてる?」
小嶋さんは顔を一気に真っ赤にした。
「え、え、…………ええ、お、おぼ、おぼえテるわよ」
小嶋さんは動揺していた。「ごまかしなんかしない。あれは本音だ。返事くれないか?」
小嶋さんはさらに顔を赤くした。
「7歳も離れてるのよ?」「あぁ、そんなん承知のうえだ」
「でも………」
「でももない!ノーなら潔く諦めるから!」
そうは言ったものの諦められる自信は全くなかった。
「違うの………。告白は学校であったわ、若い頃にも………。でもね………オッケーの場合何て言うのかは初めてでわからないの!」