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『小指の爪』
【青春 恋愛小説】

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『小指の爪』-2

「はい、こんなもんかな」
作業完了、といった感じのため息をつき、姉は私に笑顔を向けてきた。なんだか私のしらない笑顔のように思えた。
両手をいっぱいに伸ばして、目の高さに持ってくる。
「…キレイかも」
指を見つめながら、ぽろっと言葉がこぼれた。
ベッドに座って雑誌をめくっていた姉が、こぼれた言葉を拾って笑う。
「キレイにしてって言ったのはあんたでしょ」
「うん。はじめて君に感謝するよ」
ひざ立ちになって姉の肩をぽんぽんと叩く。
「はじめて?」
不満そうな声を聞いたのは背中越しで、私は自分の部屋に戻った。
明日も学校の後に予備校がある。それが楽しみでしかたないのは、はじめてかもしれない。


 やっと終わった学校。いつも一緒の友達とコンビニでお菓子を買ってから予備校へ向かう。
 彼とは、顔見知り程度の仲でしかない。ちょこっと話をしたことはあるけど、それ以上親しくなれる機会がなかった。
爪を整えて、予備校に行って、それでどうするというのか。自分でも考えていなかった。
 予備校の受付窓口の前はこぎれいな休憩所になっていて、私たちはいつもそこで講義が始まるまでのわずかな時間を過ごす。
そこで見てしまった。何でよりによって今日なんだろう。他の日にしてくれたらいいのに。
自動ドアが開いた。何となくそっちに目を向けると、入ってくるのは彼。と、女の子。
私たちの座っているベンチの前を通り過ぎる二人は、手をつないでいた。
二人の歩くスピードに合わせて、私の目も動く。視線は二人の間で重なっている手。
たしか女の子は違うコースに通っている子だ。ときどき廊下で顔を見た覚えがある。
彼女の手は、はじめて見た。白くて長い指が彼の拳から覗いている。
ただ、キレイな手だと思った。
昨日の彼の言葉は、彼女のことを指していたんだろう。


講師は、今日何を話していたっけ。どうしても思い出せなかった。
ノートを見ても、昨日のものから何も書き加えられていなかった。
今夜は自分の指を見たくなかった。


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