想いのいきつく果て〜Final〜-4
私には子供がいない。欲しくても出来なかった。だからこそ、せっかく芽生えた命を大事にして欲しかった。しのの子供なら尚更…
でも頭でわかっていても心がついていかない。
次第に苦しさだけが心を占領していく。
今にも壊れそうな心を必死に支える。
震えを止めるように自分の身体をギュッと抱き締め、涙が伝う頬を拭わず泣きたいだけ泣いた。
しのくん…私、欲張り過ぎたのかな…
しのくんに出会えた事だけでも幸せだったから…沢山愛されて…これ以上望んじゃいけないのかな…
その日を境に紘子はしのへの想いを心の奥に固く封印した。
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「おいっ!!」
「………え……」
「お前、最近おかしいぞ、俺が離婚、承諾しないからか…」
旦那は頭を抱えこみ踞る。
「……どうしたの……」
紘子が近寄ってきて俺の頭を撫でながら呟く。
その手を両手で掴んだ。
「俺は………お前のこと……大事に思ってる……それなのに酷い事してきた…本当に申し訳ないと思ってる……でも……もう……俺がいると……駄目なん…だよな……」
紘子の表情は変わることはなく、眼差しはこちらに向いてはいるが、俺を見ているわけじゃない。
激しく言い争いをしていた時は、感情をぶつけ合って傷つけ合いながらも俺だけを見ていた。
その方がどんなに良かったか……
お前の心は何処にあるんだ、何処に向いているんだ…
俺がお前をこんなになるまで追い詰めたのか?どうして……こんな風になっちまったんだ……
「……紘子……ここにサインしてある……これでもうお前は自由だから……」
紘子は差し出された離婚届けの紙を見つめたまま、小さなため息をもらす。
「……お前…大丈夫か?……」
言葉の代わりに顔をあげ微笑みを返す紘子…でもその微笑みはどこか憂いを帯びていて、偽りのものだと感じられた。
「……俺が出ていくから…お前は好きなようにしたらいい……それと…困ったことがあったらいつでも力になる。せめてもの罪滅ぼしに……それじゃ……」
長いこと家族だった男は目の前からいなくなった。
この人に助けを求める日なんてくるのだろうか…
とうとう独りぼっちになってしまった。
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あの日から2ヶ月が経とうとしていた。
待ちに待ったこの日、気持ちも高揚していく。
久しぶりにする紘子への電話……
「ーーーー現在使われておりませんーーーーー」
「えっ!?」
思わず声に出していた。
気を取り直し番号を確認して再度かけてみる。
しかし、無情にも同じメッセージが流れる。
頭の中が真っ白になった。
「……嘘やろ……紘子…何があったん……」
この2ヶ月必死だった。
自分の中で日に日に大きくなっていく不安をはねのけるべく死に物狂いで働いた。
そして僅かながら給料をもらい、健二君に保証人になってもらい家まで借りた。
もう行くしかない。
こんなことで諦められるかっーーーーーーー
考えるより先に新幹線に飛び乗っていた。