電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―追憶編―-3
ダルい。
春は嫌いだった。生暖かい空気が気分悪い。
「だりぃ……」
昔のヒト族は良いことを言った。
春眠暁を覚えず。
春は眠るに限る。ぐぅ。ぽかっ。
「いてっ」
「寝ないでくださいー……」
ゆさゆさと体を揺さぶり頭をぽかぽかと叩いて宏和〈ひろかず〉を起こそうとする後輩天使を鬱陶しく思い、
「うぜぇよ」
ぽかぽかが増えた。言わなきゃ良かった。
「わかったわかった……天界の様子は?」
「うぅ…」
煮え切らない後輩に、
「よ・う・す・は?」
一音一音区切って言葉を叩きつける。
「あの、先輩に協力したいのは山々ですが、基本先輩は犯罪者で……」
「で?」
「あ、勿論先輩が本当は無実だって知ってます。冤罪です、知ってます」
「だから?」
「けど、天界の情報を先輩に洩らすのは色々問題が」
「……あー」
面倒になった。
「もういい。悪かったな」
立ち上がる。情報を得られないなら、ここにいる必要はもうない。
「あの、先輩」
後輩は宏和の性格と立場を知っているからか、引き止めはしなかった。
「……気をつけて、ください」
「おぉ」
短い返事は、感情がみられない。
後輩は先輩の復讐を、ただ見送る。
復讐の相手は、天界。
或いは、《神》そのもの。
「…………」
心を過ぎる、家族の記憶。
――優しい義姉。天使に相応しい清浄な笑みを浮かべる、唯一の家族。
思い出は、数え切れない。
けど追憶に時間を費やすには、血の繋がらない家族の思い出は切なすぎた。
宏和は記憶を振り払うように、歩みを速める。