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Better days~introduction
【大人 恋愛小説】

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Better days~introduction-2

「…本当に好きなの。」
ぽつりと呟いた。
「せめて顔を合わす間は、可愛くいたいのよ。何年経っても。」
姉の恋愛論が意外に純粋だったことに驚いた。
夫婦像だとか、理想の家族だとか、そんなものは私たちの間では壊れたものだと思っていたのに、この人は、まだ信じているんだ。
愛情とか家族とか。
やっぱり、私たちは理解しあえない姉妹だ。
「ふうん。」
「そう、やさぐれないの。」
「別にやさぐれてる訳じゃないよ。現実を見てるだけ。」
 私たちの父と母は離婚している。姉が中学三年で私が小学五年の時に、もう信じられないくらい大喧嘩をして、家具もなにもかも壊して罵って、裁判まで起こして離婚した。
ただ私の記憶の中にあるのは、二人の怒鳴り声と引っ越す前になんにもなくなった部屋と、姉が受けたがっていた私立の受験票を破いていたことくらいだ。
母は、強かった。
借金癖と女癖の悪さの直らない父を捨てて、今はトップセールスマン(女性だからレディか。)に上っている。
けれど、だからといって完全に砕け散って壊れたものを修復することは、できない。
姉は強かったのだと思う。
破れた受験票は、それでもハイレベルな公立の進学校だったし、彼女は多分行きたかったであろう大学へは行かずに就職した。
私は、弱い。
私の心の一部は、ずっと砕けたままだ。
私は未だに、理解出来ない。
今の世の中、大多数が離婚経験者になろうとしてる。
全然理解出来ない。
だったら初めからしなきゃいいのに、そう思う。
あの時からずっと、私はずっとそう思い続けている。
そして、満たされないまま、ただ毎日を過ごしている。
「信じられないかもしれないけど、私の好きな人は、…父に似てるのよ。」
「…?」
「借金がやめられなくて、…『元』女癖の悪かった人かな。」
微笑みながら姉が私に言う。
「家族が欲しいとか、幸せになりたいとか、私もよくわかんないよ。正直。…でも、あの時父の味方は出来なかった私がなんでだかわからないけど、彼は助けたいの。力になりたいの。支えてあげたいの。」

「片思いの時はずっと悩んでた。なんで好きなのか。…絶対、また苦しい思いするのにって。
でも、不思議なことに自分の一方的な想いが、一方的じゃなくなった瞬間、どうでもよくなったの。先の自分が苦しいのなんか考えられなくなった。
…結婚って約束でしょう?
ずっと一緒にいようねって、目に見える約束。
自分でも不思議。あんたみたいに、ついこの間まで浅はかだと思っていた約束が、今は死んでもいい位に嬉しいの。
…籍は入れないけどね。」
冷たかった姉の無表情は、穏やかな温かい顔に変わっていた。
強いお酒の性かもしれない。

「わからなくてもいいよ、あんたはあんたの人生だから。自分で答えを見つけたらいい。」

そう私に笑って。

「…ねぇ、彼氏どんな人?」
最期の一つになったチョコレートをつまんで、私は姉に聞いた。姉は、意地悪くでも飛びっきり可愛いえくぼを見せ、秘密と答えた。
窓を締めて半分残っていたメンソールの箱とチョコレートの空箱をごみ箱に捨てる。

その翌日、
姉は家を出て行った。


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