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Better days~introduction
【大人 恋愛小説】

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Better days~introduction-1

姉には、癖がある。
彼女が疲れきった夜、彼女は自室のベランダでチョコレートボールとウォッカのオンザロックを嗜みながら、1mgのメンソールを蒸かし、月を見る。

泣きそうな顔、にも見えるし、でもどこか冷たい無表情で、ただ呆然と月を眺めている。
ベランダの際にもたれて。

溜め息さえ聞こえない、静まりかえった、深夜一時のいけないかぐや姫。

彼女はお酒は絶対家では飲まないし、体裁的にはノンスモーカーだ。
 初めて、見つけたのは去年の秋。内緒で、遊びほうけて深夜にベランダから帰ってきた日にたまたまドアの隙間から見えた、ウォッカのボトル瓶と、煙草の煙に、初めは男を連れ込んだのかと目を疑った。
けれど、それは紛れもなく姉本人で、姉は私と4つも離れていて私と違って社会的にも正しくお酒も煙草も許される歳なのに、何かいけないものを見たような気がした。
それが始まり。

月に一度もその癖は現れず、去年は最初の一回の後はクリスマス前の暮れに1度だけ見た切りだった。

そして今、三月の終わり、彼女は同じように月を見て、冷たいオンザロックと甘いチョコレートをつまみに、泣いていた。

今度は本当に、涙が落ちていた。

チョコレートをつまむ左手は、綺麗な銀色の光沢が遠巻きにみても十分美しく薬指で輝いているのに、彼女の顔は歓びよりも、哀しみとどこか疲れ切った涙に見える。

―なにが不満なのだろう。
私の中に、黒く醜い感情が沸き上がってきていた。

本当に姉が憎らしく思う。
順調に仕事もあって、
好きなものを得られて、
大好きだと言う恋人がいて、
同棲するのだという。
23歳という若さで。
なにが不満なんだろう。

せっかく手に職つけるために専門学校に入ったのに、この社会情勢の中就職不安な私。遊ぶお金を稼ぐ程度のバイトと、合コンやナンパで満たされない気持ちを埋めるだけの男と遊ぶのを繰り返す日々。19歳なんてみんなそんなもんだと思うけど、もちろん私が甘えてるのもすっごくわかるけど、だけど、何で彼女が泣くの―?

「マリッジブルー?」

気づいた時、あたしは声を出していた。

「…知ってたの?」
眉をしかめながら、苦笑いする。
「まぁね。隠れてないで堂々とすればいいじゃん。誰も怒らないよ。」
ずかずかと踏み入って、彼女のチョコレートに手を伸ばした。
「…辞めたいの。癖になるでしょ、堂々としたら。なるべく自分に負けたくないの。」
「彼氏びっくりするんじゃないの?彼女の意外な醜態に。」
笑いながら皮肉ってやる。
「そうね。今日で終わりにしなきゃね。」
隠す素振りもなく姉はウォッカをぐぃと飲んだ。
「なんで?無理しなくて良いんじゃない?隠してもしょうがないでしょ。」
「何でも全部見せ合うことが美しい訳じゃないのよ。」
「難しく考えすぎ」
「ふふ…そうかもね。」
半ば自嘲気味に笑っていた。
姉は私と話す間もずっと月を見ている。


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