僕らの関係 最終話 いつも隣に……。-3
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「それじゃあいってくるわね。由香、お留守番、お願いね……」
由香の母、相川瞳はいつまでたっても治らない心配性からか、小学生への託のように告げる。
「もう、子供じゃないってば……」
「ごめんごめん。それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
由香は扉が閉まるまでの数秒の間、学園祭で身につけた営業スマイルを維持。
がちゃりととが締まると、それを合図に走り出す。
まずは自分の部屋。
太陽で黄色く黄ばんだカーテンをはずすと、代わりにレースと赤い情熱的なカーテンに挿げ替え、布団も客用の羽毛布団にする。床はちり一つ残らぬよう、掃除機をかけた後、ころころも行う。
勉強机は花でも生けようかとおもうも、縁起が悪いのでやめる。代わりに昔幸太にもらったクマのぬいぐるみとウサギのヌイグルミを並べ、ついでにピンクのリボンをつけておく。
――幸太ちゃん、気付いてくれるかな?
自分は襲われるほう。そんな妄想に二十秒かけた後、並んだ枕の下に自販機で買ってきた例の箱を忍ばせる。
安ホテルを彷彿させるデコレートだが、彼女は続く作業に入る。
台所ではノンアルコールのシャンパンにアイスケーキ。生クリームを手製で作り、サイドアップさせ、グラスと一緒に冷凍庫で冷やしておく。
メインデッシュであるローストビーフを切り分け、水気を切ったレタスにのせ、パプリカの輪切りを沿え、ゴマドレッシングと揚げたチーズをまぶす。
スープはカボチャのポタージュを作り置きしており、ためしに飲むとほのかな甘みと、少し舌に残るコクが感じられた。
ごはんとパンは別として、今他に準備すべきものは……。
ピンポーン。
チャイムがなるが、まだ約束の時間まで二時間はある。お風呂も用意しておきたかったのだが、きっと幸太も早くしたいのだろうと思い、彼女はエプロンの前で手を拭き、玄関へ急ぐ。
「よっほー、里奈だよ!」
しかし、現れたのはツインテールの泥棒猫。たしか彼女は部員と一緒にカラオケに行ったはず。
「な、なに里奈? どうしたの?」
「それがねー、聞いてよユカリン。あのね、みんなで行こうって言ったら、先輩が急にデートだからってドタキャンしたの。里奈すっごい腹立つんで、今日はもうの
もーって思ってね……」
それなら一人で飲んでもらいたい。
由香は心の中でそう呟く。
「くんくん……あれ、なんかおいしそうな匂い……ユカリン、誰か来てたの?」
「え? ええ、その、まあお友達が来るから……それで……」
「ふーん」
里奈はずいっと顔を近づけると、にこにこ笑顔で彼女を見る。由香はその勢いに圧倒され、目を逸らせない。彼女の丸い瞳はきょろきょろ動き、一向に笑う気配が無
い。