密心〜かみのいは〜-1
『身請けしたい』
それが遊女にとって、一番よいことだと思っていた
思っていた
やけど、なぁ……なんで?なんで拒むん?
俺にはみそかが分からない
みそかに好かれている自覚はあれど、ねだらなければ甘い言葉など囁かれない
好意は好意でも一生を共に添う覚悟までは決めてもらえぬのかと、勢いづいていただけに……落ち込んでしまう自分をみつけてしまえば、まだまだ未熟だと心底思うばかりだ
――真剣に言うたことなんや…とは伝わっていると思う
苛立つ気持ちや焦れる気持ちを見つければ――みそかに会いたいのだと自覚するばかりで
そうは思えどどこかでまた拒まれたらなんて思えば――足はすくんだ
結局……行くか行かんか、手ぇこまねいとる
会いたくてたまらない
この手に、この腕に、――あの細く華奢な体を閉じ込めたい
もう離したくなどない
大事なものをこの手から手離したくない
かのは……結局、嫁に行った先は後妻で、そこの妾のために花街に売られたと聞けば、すぐ探し歩いた
ようやく見つけた母代わりはすでに世になく、忘れ形見に残された……かつて姉のように慕っていた娘も、もはや遊女として世にあった
もう――立派に遊女としての彼女があって、……母と姉を探すようなつもりでいた今より幼いころは……それはそれは荒れた
遊女遊びに嫌気が指した所以もそのときからであろう
けれど今はもう……、たまの付き合いの座敷に出会っても、姉をみるような歯痒い気持ちは――浮かばへん
彼女には――立派に遊女として世に夜に咲く女の誇りがあるからやろう
だから……せやから姉のように、思っていた しの には、……牡丹花魁には身請けを断られたのだとわかる
けして夜伽のためでなく好意のつもりだったが、あれで酷く誇りを傷つけたんはわかってた
せやからそれ以来、もう俺の姉やった しの はおらん
あれは牡丹花魁という高い花なんや
そう、割りきった