ネコ系女 #1-5
「あ、あの、すみません!あ、こら。お、お客様、すみま、あ!」
まずい。非常にまずい。
ネコを入れやがったお客さんは常連だから大丈夫だろう。けど、問題は彼だ。
クレームの原因となってもおかしくない。
「お客様、大変申し訳ありません!」
ここは私も謝らなければ。
そんな私の気持ちとは裏腹に彼はニッコリ笑って
「いやいや、いいんです」
パタパタと彼は顔の前で手を振る。
「俺、ネコ好きだから大丈夫ですよ。ここのケーキ屋さんはネコ飼ってるんですね」
「いえ、違うんです…たまたま入ってきてしまって…」
んな訳無いでしょ。
仮に、本当に飼ってたら姫代はネコとここまで格闘していない。
「あっじゃあ、ノラ?」
「たぶん、そうだと思います」
きったないから。
「そうなんだ。じゃあ、俺飼ってもいいですか!?」
はい?
「いいんですか!?」
ずいっと嬉しそうに姫代が彼に顔を近付けた。
こら、お客様に失礼だっつの。
足下から妙なのが生えてきてさすがに彼も驚いたらしい。
「は、はい。全然いいっす」
少し吃りながらも頷いた。
「本当によろしいんですか?」
「はい、も、全然!ケーキだけじゃなくネコも持って帰れるなんて」
彼はまたクシャっと嬉しそうに笑った。
全くいい人というか人が良いというか…。
「じゃあ、お願いします」
菓子を取り扱う販売員として正しいのか分からないけど、なんとなく、彼に任せてしまった。
「はい!」
彼はネコを抱き上げて花が笑むような笑顔で店を出ていった。
「良かったね、朝希!」
姫代がそっと囁いた。
「まぁね。…一之宮さん、高橋様お願いします。私は床を拭きますから」
「はい!」
ネコの歩いた後に少し泥が付いていたので、私はモップを掛けた。
ガラス窓から見えた彼の背中は、何だか大切なものを抱えるように丸まっていた。