ネコ系女 #1-3
【ネコ系女は観察力が半端じゃない】
「あの、ケーキが欲しいんです」
「ええ、どれに致しますか?」
この間三秒。
「ええっと…どれにしようかなぁ。迷うな…」
彼は困ったように笑いながらケーキを見ている。
「誰かに差し上げるのですか?」
私はすかさず助け船を出してあげる。
「えあ、はい!そうなんです!」
驚いて顔を上げた彼は思ったより背が高くてびっくりした。
彼は頬をポリポリ掻いて恥ずかしそうに
「ケーキってあんまり一人で買いに来たこと無いから…」
と言うと、またケーキに目を落として「うーん」と悩み始めた。
私はまた微笑みながら彼に問う。
「誰かのお誕生日ですか?」
「や、あ、うん、まぁ、そんな感じなんですけど」
私が話し掛ける度に、彼は顔を上げてニコニコと惜しみ無く白い歯を見せた。
私はホールのケーキに手を添えて勧めてみる。
「でしたらこちらのケーキいかがですか?」
「うわぁ〜!みんな美味しそうですねぇ。でもこんなでかいの食べきれないっす…」
そこまで申し訳がらなくてもというほど、彼は手を合わせて何度も頭を下げた。
「同じ物で四号のものがありますよ。直径十二センチなんですけど」
私は手で彼の前に円を作って見せた。
すると彼はクシャッと笑った。くりっとした目が垂れて、何となく目出度い顔になった。
「それでお願いします!」
「畏まりました」
何がそんなに楽しいんだろうと思うくらい、笑っている。
「では、どれにしますか?」
「えーと、じゃあ、この生クリームのヤツ」
「はい」
生クリームデコレーション。ありきたりな男はやっぱりありきたりなケーキを選ぶのか。
「チョコプレートにお名前入れられるんですけど、どうしますか?」
「本当ですか!?じゃあ"ももちゃん"って入れてください!」
『ももちゃん』ね。この人の彼女か。
「"ももちゃん"ですね。一之宮さん」
「えっ?あ、はい?」
彼とのやり取りを一通り終え、私は姫代を呼んだ。
二人きりの時はお互い呼び捨てだけど、お客さんがいる時は名字で呼び合う。