憂と聖と過去と未来 4-10
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翌日、あたしは聖の病室を訪れた。
ノックをしても返事がないので勝手に入ると、聖はベッドの上で天井を見つめていた。
「…聖?」
「……憂」
返事をしてくれた。
「あの…今日は聖に話があってきたの」
「……」
「聖、おしえて。佐山さんと何があったの?」
正直、あたしは最低だと思った。
今の聖にこの話は絶対にいけないと理解もしていた。
でも…このままじゃあたしも壊れちゃう…
「…憂」
「…なに?」
「…俺な、お前のために頑張ったんだよ」
「……え?」
思いがけない言葉だった。
「…俺、あのとき断ったらお前に悪いと思って…でも、佐山とは付き合う気なんてなかった」
「……」
「でもな、脅されたんだよ、お前の高校生活を壊すって」
「……え?」
「佐山は…やばいやつだった」
「……」
「いろんなことがあったよ。携帯を取り上げられたり…行動を制限されたり…ひどいときは、目の前で自傷行為までしやがった…」
心臓がバクバクと鳴る。
「我慢して…我慢して…でも、憂を傷つけるわけにはいかなかったし…でも、たまに憂と話せたのがとても幸せで救いだった…だから頑張れた…我慢できたんだ」
「……」
あたしは立ってられなくなり、冷たい床にへたり込んだ。
「…それであの日、憂と話して、佐山と別れることを決心した…」
「…」
「…俺が憂を守ればいいって安易な考えだった…そして佐山の部屋に行って別れを切り出して…帰宅しようとしたら…佐山がマンションの前に立ってた。たぶん、タクシーかなんかで先回りしたんだな…」
「……」
「…手にはナイフ。いきなり突っ込んできて、完全に避けきれなかった」
「……」
「…まぁ、それが事の真相だ」
「……」
聖は淡々と話したが、言いたくなかったと思う。
それよりも…
あたしはとんでもないことをしてしまった。
聖の顔は、昨日のようにとても重苦しい顔をしている。
なんとなく、しばらくこの顔は元に戻らないんだな…なんて思う。
そうさせたのは…あたし。
確かに直接、手を下したわけじゃない。
でも…聖はあたしを守るために…
今までのことはすべて裏目に出ていたのかもしれない。
あたしが聖を傷つけた。
あたしのせいだ。
「うっ…うわぁぁぁっ…」
あたしの心は大きな音を立てて壊れた。