鎮魂(その1)-1
かつて南欧の詩人は言った…
…その深い森はあなたの罪深い生活の寓意であり、その森の中の門の先は、時のない無限の快楽
に溢れた地獄の暗闇である。そして獣たちが、きっとあなたをそこに導いてくれる。
腐爛した屍の散乱したその闇の中では、罪を犯した女たちが、衣服を剥がれ、鎖で縛られている。
そして、焼かれる蝙蝠の肉の腐臭の中で嘔吐を繰り返し、女たちもまたその焔で炙られるのだ。
その女たちの焦げる性器に群がる、飢えた獣の顔をした男たち…
やがて獰猛な男たちの精液によって充たされた女の陰部は、その肉襞に尖った針を刺され、淫汁
を搾りとられ、性器を刃物で削がれる…。そして、その男たちの鋭い毒歯で喰い裂かれ、陰肉は
その咽喉の奥深く呑み込まれる。
性器を屠られる女たちは、その姦淫の罪に与えられる肉の苦痛を永遠の快楽としているのだ…
女たちは魔女と呼ばれ、地獄の暗闇に突き落とされ、焼き尽くされる…。
目の前の荒れた海が咆吼めいた波の音をたてている。
太陽の強い光を浴びた海から吹いてくる風を頬に受けながら、私はある南欧のホテルのテラスで
眼下に広がる海を見ていた。
一ヶ月前、あの人は喉咽を掻きむしるように死んだ。
私が愛し、憎み続けたあの人…私はあの人に犯されたあのときから、ずっとあの人の呪縛から逃
れられなかった。子宮に這い上がるあの人のどろりとした精液が、私の中を罪で溢れさせ充たし
ていく、あのさざ波のような淫猥な欲情…。
そして、その欲情という罪に与えられる鞭の痛みが、私に果てしない肉欲への渇望と飢えをもた
らし、快楽という坩堝に突き堕としたのだった…
その肉色の豊饒の時間の中で、私の膣襞が爛れ、腐り果てていくのだ…
私は、膝に置いたその詩人の本を閉じる…
南欧の熱い陽射しの中で、私は目を閉じ、微睡み、やがて深い眠りに吸い込まれていった…
碧い地中海に向かって拡がった荒涼とした灰色の丘…その丘を越えるとそこには深い森があり、
廃墟となった白い僧院があった。その僧院は、鬱蒼とした森の中で、ひっそりとした静寂に包ま
れていた。
僧院の入り口の大理石の門に施された化石のような唐草模様のレリーフは、かなり色褪せて風化
している。そして錆びた鉄の扉には赤い薔薇の棘が絡み、どこか洞窟の深い穴を思わせるように
その中の暗闇を覗かせていた。
私はその扉を開け、門の中に入る。人気のないその荒削りの石の壁に覆われた広間は、ひんやり
とした空気に包まれ、薄暗く、高窓からわずかにあの南欧独特の強い光が差し込んでいた。