青いホース-4
「大切なものを、穴を掘って隠すじゃない、犬って」
「うん」
「だけどあのこは隠した場所をすぐ忘れちゃうの」
どこに野生を忘れてきたのかと尋ねたくなるほどのお馬鹿っぷりだ。そこが可愛かったのだけれど。
「で、ふと隠したことを思い出して掘り当てようとするんだけど、見つからないの。そこいら中穴だらけにしても、見つからないのよ、馬鹿だから。それですぐにお父さんに怒られるの」
思い出すとおかしかった。庭の手入れを主にしていたのは母だったのだけれど、穴だらけになった庭を見て一番怒るのは父だった。父は母の育てた花を誰よりも愛していたから。
そうしてしかりつけられて、穴を掘るのをやめさせられ、しょんぼりとするあのこの姿を今でも思い出せる。あの哀れさといったらない。本当に、お馬鹿で可愛いこだったのだ。
「大切なものを埋める気持ちってどんなかなと思って。それをもう二度と掘り起こせない悲しい気持ちって、どんななのかなと、思って」
手で穴を掘って、もう二度と帰ってくることのないあのこを埋めた。そうしたらあのこの気持ちがわかるかと思ったのだ。だけど私にはわからない。あのこの悲しみも、痛みも。ただただ爪が黒くなっただけだ。
私の話を黙って聞いていた男のひとは、私が爪の土をとるのを諦めたとわかるとホースを余所へと向けた。そうしてまたホースの口を指で押さえて、水をまき始める。あ、また、虹。気付いているのかいないのか、男のひとは視線をぼんやりとホースへ向けている。