投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

青いホース
【その他 その他小説】

青いホースの最初へ 青いホース 4 青いホース 6 青いホースの最後へ

青いホース-5

「きみは優しいんだね」





 不意にそんなことを言われて、どきっとした。





「違う、感傷にひたってみただけだよ」



「そうかな、でも、優しいと思うよ」



「やめてよ。優しくなんかない」



「どうして?」





 どうして、って、そんなの。





「だって」





 鳴き声が耳に残っている。いつも大人しく、騒ぐことをしないあのこの、甲高い悲鳴。やめて、やめてと声が聞こえるようだった。そうして一つ大きくわん、と鳴いて、それきり動かなくなってしまった。



 私が、





「私が、殺したんだよ」





 男のひとが、ぱっとこちらを向いたのがわかった。だけど私はそちらを見はしなかった。ゆっくりと瞼を落として、胸の内で言葉を反芻する。私が、殺した、あのこを。

 瞼の裏、闇の向こう側、太陽の光が見える。白と赤と黄色に眩しい光の中で、手入れの行き届いた庭と、麦わら帽子をかぶってそこに佇む女性、それをベランダから見守る男性と、その横にごろりと寝そべった大型犬の姿が浮かんだ。私の日常をとりまいていたはずの、当たり前のような幸せの風景。



 ゆっくりと瞼をあげる。そこに帰ってきた現実は、あまりにも虚しかった。



 もう、誰も、いないのだ。


青いホースの最初へ 青いホース 4 青いホース 6 青いホースの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前