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-3

 翌朝、息苦しさのあまり零は目を覚ました。
 朝食を持ってきた鈴音が悪戯に鼻を摘んだのだ。
「いやぁ、無防備な顔を見ているとつい……」
 零の非難を余所に、鈴音は笑った。
 鼻を押さえていた零もつられて笑う。
「もう二、三日この町にいたらええのに。なんやったら、うちに来る?」
「いや、まだ別に行きたい所もあるし、出掛けるよ」
 そう言ってバイクのエンジンを回す澪。
「別に行きたい所って?」
 頬を膨らませる鈴音に敬礼してみせる澪。
「鈴鹿山の鈴鹿御前と白鷺城の刑部姫の所だよ」
 白煙を上げて走り出すバイクの後ろ姿に怒声を上げる鈴音。
「も〜ぉ!女の人の所ばっかりやんかぁ〜!阿呆!!」
 地面を蹴飛ばす鈴音。
 その後、澪から写真が送られてくるのを楽しみにしていた鈴音だったが、それが届いたのは六月だった。
 あの後、気の向くまま各地の伝承を訪ねて回った澪は、最後には妖犬伝説を求めて与那国島にまで渡ったらしい。
「あの兄ちゃん、どこまでほっつき歩いてんねん」
 手紙を見ながら、呆れ顔で呟く鈴音。
 送られてきた写真の中には吉野の千本桜や姫路城の写真も含まれていた。
 しかし、中でも目を引いたのはやはり鬼御前の櫻だった。
 昼とも夜ともつかぬ凍りついた時間の中、白い櫻の木が枝を広げている。
 そして、沼は鏡のように静まり、地平線を対称に御前櫻を写し取る。
 思わず歓声を上げる鈴音の手元から一枚の写真がこぼれ落ちた。
 何時の間に撮ったのか、鈴音の写真だった。
 そして裏には、来年の春にはまた鬼御前に会いに来ると書いてある。
 落ちた写真を拾い上げ、眉根を寄せる鈴音。
「あのお兄ちゃん、ほんま、阿呆やわ」

終。


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