電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―桜編―-7
しばらく待つと、消火器と共に佳奈が帰ってきた。
「……重い」
消火器担いで神社の階段登るのは大変だろうなと思った。それにしても、本当に消火器を持ってくるとは。
「ふっふ? 重い?」
「一般的には重いと思いますですよー」
「……むむむー。えぃ☆」
パシュッと、光は刹那。
一瞬で、消火器は消しゴムサイズになった。
「うわっ」
「すごいですねー。あなた達の言葉で言うなら、〔拡縮〕〈スクイーズ〉の〔現象〕ですねー」
呆気にとられるのは彩花も同じだ。
彩花みたいな下位、または中位天使は人間とさほど変わらない能力しかない。〔現象〕の存在と励起の方法は知っていても、〔意志〕が人間とさほど変わりないからだ。天使といっても特別出来ることはあまりない。それなのに、物理を完全に無視する〔現象〕をいとも簡単に起こせる特位天使は、如何に並外れた力を持っているか。思い知らされる。
「これでいーい? じゃあね、これ使い方説明、」
「あープクトがやるです。美由貴じゃ何時間あっても足りないです」
非常に悲しそうにアヒル口になってプクトという謎生物を睨んでいるが、プクトは全く気にせず消火器の使い方を説明していく。
「〔増幅器〕のことは知ってますですか? 簡単にいうと、特定の〔現象〕を起こす道具です」
〔増幅器〕というのは初耳だったが、〔現象〕の意味は知っているからそれで説明はついた。頷いて、続きを促す。
「消火器の見た目通り、この〔増幅器〕の効能は『熱を奪う』ことにあるのです」
「熱を奪う……火を消すだけじゃなく?」
「はいです。あらゆる熱を奪えるのが、この〔増幅器〕の特徴ですねー」
「んー…力はわかったけど、これ役に立つの?」
「使い方次第では役に立ちますですよー。これは、マテリアル……えっと、精神の熱にも効力は及びますです」
「???」
「怒りや恐怖などの感情の高ぶりも鎮められるってことなのですよー」
「…まだよくわからないんだけど」
「口では説明しにくいですからねぇ。まあ。いつでもマヒャドが使えるってことで」
「これは、私にも使えるんですか?」
ようやく口を挟んでみるが、プクトは首を横に振る。
「佳奈用に美由貴が作ったものですから。他の人は使えないです」
いつの間に作っていたのだろうか。いやむしろ。何故これを佳奈に与えたのだろうか。
「さ、いってらっしゃいなのですよー」
「あれ? プクト……ちゃんは来ないの?」
「彩花、見た目が可愛いからってプクトを子供扱いしちゃダメですよー。プクトは口しか出さないのです、傍観者です」
自分で可愛いとか言うなというツッコミは口の中で消える。
「じゃあ行こ行こ☆† 真琴助けに行こ◎◎」
ミュリエル……美由貴はふわふわと、まるで買い物に行くみたいに動作が自然だったので、じっと見てたプクト以外は気付かなかった。
ぎりぎりと奥歯を噛み締めながら無感情な瞳という、相反する表情は、いつもの美由貴ではなかった。