僕らの関係 残るヌクモリ。-9
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「なんか喉渇いちゃった。待ってて、紅茶淹れて来るから」
快感が納まった幸太はゴムを縛ると、照れくさそうに笑いながら部屋を出る。
本当はもう少し肌を重ねていたかった由香は、彼の残り香を懐かしく思い、ベッドに潜り込む。
――もう、幸太ちゃんたら……、もう少し余韻ってのあるんじゃないのかしら?
普段彼のを処理しているときも彼女は掃除と称し、執拗に射精したあとに彼のものを舐ていた。彼は擽ったそうにそれを嫌がるが、それは彼が淡白なのか、それとも由香がしつこいだけなのか?
寝汗の染み込んだシーツは自分とは違う臭いがした。
――幸太ちゃんの臭い。私の臭いってあるのかな? もしあるなら、うつしちゃお。
由香は先ほど幸太がしていたように身体をベッドにこすり付ける。わざわざスカートをめくり、まだ女のすえた臭いのする部分を惜しげもなく擦り付けるのは、まるで犬のマーキング。それでも、身近な泥棒猫を近づけないためにはペットボトルに水を入れるよりも、ずっと効果的……。
――あれ? これって?
二〇センチ程度の長さの黒い糸。先っぽが細く、白い毛根が見える。
――幸太ちゃんの髪? にしても、んー、微妙……。
一瞬里奈の顔が浮かぶが、彼女はもっと長い。もともと髪を切りたがらない幸太は男にしては髪が長く、目の前のそれもその一本でしかないはず。
由香は枕元にあるカラフルな箱を取る。
六個入りと書かれている箱はセーフティセックス、ノーエイズと書かれているが、中には二つしか残っていない。
一つは今使ったばかりで、一つは練習に使っていたとしても、数が合わない。
気になる事は他にもある。
妙に慣れた女の扱いもそうだが、一番気になるのは彼の態度。
「由香」
呼び捨てにされたのが、なぜか引っかかる。もちろん愛の行為の最中に〜ちゃん付けでは興も醒めるというもの。
由香は起き上がると、服を直し、鞄を持って足早に部屋を出る。
台所でのん気に鼻歌を吹いている彼に気取られぬよう、音を立てずに慎重に階段を降りると、戸をあけると同時に逃げるように飛び出した。