僕らの関係 残るヌクモリ。-23
鏡の前にはぶかぶかの制服を着た可愛らしい相模原の女子がいた。
美雪が「指で袖を掴んで、人差し指を咥えて」とうるさいので、ポーズをしてみせると、案の定「かわいいー」の嵐だったが、恵は無言のままだった。おそらくあきれられたのだろうと、幸太は軽く自己嫌悪に陥った。
慣れないスカートは太腿の辺りがスースーして具合が悪い。肌寒い今日この頃、何故こんなにも利便性の無い恰好を強いられるのか、世の女生徒に同情したくなる。恵はスパッツを貸そうかと言ってくれたが、さすがにそれはまずいと断った。しかし、今になってやせ我慢を後悔した。
「ね、これよくない? いちご味だって」
にんじんにゴムを被せた雌ウサギが雄に寄り添う恰好の箱をみると、子供が間違ってほしがったりしそうだなと思いつつ、そのアイデアに素直に感心してしまう。
「ダメですよ、先輩。そういうのは破けやすいから、ちゃんとしたのを選ばないと」
恵が選ぶのは厚さ〇・〇五ミリとある重厚なパッケージのもの。確かに破れにくそうなイメージだが、〇・〇二ミリ遠ざかることが寂しくもある。
「やーん、恵の趣味って可愛くないわー」
「まったくこの人は……、そんなこといってると、コウと可愛い赤ちゃん作ることになりますよ?」
「えー、それは困るかも……しょうがないか。幸太君、買いに行こう」
わざわざ手を引いてレジに向かう美雪だが、商品はグレーの箱だけ。買い物もしたいからというのは嘘なのかと思いきや、恵はカゴを片手にアルコールとつまみ棚を物色中。
「ねえ、ユッキー、恵を待ってからでも……」
「ダメだよ。恵はお酒選んでるし、私達制服だよ? 止められちゃうじゃない」
「コンドームはいいの?」
「いいの。だって、性教育の一環じゃない?」
その理屈だと美雪にとっては、アルコールも社会勉強の一環なのかもしれない。
レジに重厚なグレーな箱を出すと、店員は目を合わせずにバーコードを読み取り、値段を告げる。わざわざ紙袋を取り出す店員に、美雪は待ったをかける。
「あ、袋は要りません。すぐ使いますし。この子が」
「な、何を言い出すのさユッキー!」
醒めかけた酔いが一気にぶり返したのか、顔が真っ赤になる。しかし、美雪は意に返すことなく、店員にお札をわたすと、またも何かを言い始める。
「この子可愛いですよね? 今日が初エッチなんですよ。ほら、アソコでお酒選んでる大学生の彼、あの人とするために買うんだよね?」
「やめてよ、ユッキー……」
店員は苦笑いながらも「がんばってね」と言ってくれた。夜にコンビニに行くことが稀な幸太だが、この時間は特に来ないよう、心に誓った。