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恋愛の神様
【ファンタジー 恋愛小説】

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恋愛の神様・後編-3

「…」
「…」

道中無言。
お互いの足音だけが妙によく聞こえる。

この状態の理由は、あたしが八代を好きだって言ったから…だよね。
でもそれってそんなに困る?あたしと喋りたくないくらい?
そりゃ確かに友達と同じ人を好きなんて片思いの部類では厄介だけど、でもそんなのよくある話じゃん。
無言のあたし達を引き連れて八代はスタスタと歩き続けた。

「ここ、俺ん家」

暫く歩いて着いた場所は一軒の真新しい建て売り住宅の前。表札に"八代"とある。

「あんたん家で美味いもんが出てくるの?」
「出ねーよ。出してくれるのはこっち」

親指が示すのはすぐ隣の甘味処。
開店して間もないようで、店先には開店を祝う花が置かれている。

「祐希に弁当のお礼」

そう言って笑う八代を見る祐希の顔はやっぱり恋する乙女で、あたしはと言えば、思わせぶりな事をする八代が気に入らない。
今に見てろよ。祐希が元に戻ったらお前に言い表せないくらいの疎外感を抱かせてやる。

「実果はついでな」
「誰がついでだ」
「お前俺に何かしてくれたのかよ」
「何であたしがあんたに何かしてやらなきゃ―」

口喧嘩をしながらお店の引き戸を開けると、

「…」

自然に声が出なくなる。
あんこの甘い香りと鼻腔を抜ける深い緑茶の香りに包まれた途端、あたしの中のトゲが剥がれた。

「良い匂い」

ポトン、と、言葉がこぼれ落ちた。
それは祐希も同じみたい。

「…ほんと」

さっきまで避けてたのに、ごく自然にあたしの後に続いてくれる。
あたし達は、ゆっくり、お互いの顔色を伺うように本当にゆっくりと顔を見合わせて。

「ふふっ」
「ふっ」

カッコ悪く笑った。



数分後、あたしと祐希の前には注文したフルーツ白玉と緑茶が運ばれてきた。
八代はお茶だけ。

「何も食べないの?」
「俺甘い物苦手」
「じゃあ甘味処をチョイスしなきゃいいじゃん」
「いいんだよ、今日は接待なんだから」

照れ隠しのようにズズッと音をたててお茶をすする八代を、初めて見直した。

「あんたって、意外といい奴だったのね」
「お前な、褒めるならちゃんと褒めろ」

ふぅん、そっか。
女の子の祐希はこいつのこーゆうとこが好きなんだ。
じゃあ、男の子の祐希はあたしのどこが好きだったんだろう。
そう言えば、あたしは祐希のどこを好きになったんだろう。
祐希はなんでOKしてくれたんだろう…


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