恋愛の神様・後編-11
「また作ってよ、弁当」
「え、あぁ、うん。いいよ、何が美味しかった?」
「唐揚げ」
「…冷凍食品だけど」
「えっ、あ…、いや、いい温め具合で、お前チンするの上手いな〜」
「自然解凍」
「…あぁ、なぁ!?」
「なぁって何よ」
「まぁまぁ、あ、ほら着いた。ここ」
「そうやってすぐごまか、す―――」
心臓が痛いくらい強く波打った。
「ここ…?」
見覚えのあるその店は純和風な作りの甘味処。オープンして間もないらしく、店先にはたくさんの花が飾られている。
あたしは、ここに来た事がある。あれは夢の筈なのに…
祐希に気付かれないようにゆっくり呼吸を整えて店内に入った。
「匂いまで同じ…」
甘いあんこの香り、深い緑茶の香り、全部知ってる。
でも、そんなまさか…
席について注文を終えたあたしの心境は、これから甘い物が食べられると言うのに胸の辺りがグルグル渦巻いていてスッキリしなかった。
正夢?
違う、このもやもやにそんな簡単な言葉は当てはまらない。
夢の中の事は全部覚えてる。ここ数日の間に体験した事として、頭にも体にもはっきり残っているからだ。
じゃあこの喪失感は何?
あたしは何を忘れてるの?
祐希はこうして男の子でいるし優しいって分かったし今もこうして二人っきりでいられてる。
恋愛の神様に願った通り、あたしは現状にとても満足している。
あとは、何?
もしあれが現実だとして、それで全て恋愛の神様の仕業だとしたら…
そっと制服のポケットに手を入れた。そこにはあの軽薄な姿形のお守りが入ってる。
あの日から怖くて一度も触れていないそれに、とてもゆっくり手を伸ばした。
恋愛の神様。
縁結びの神社。
恋愛の神様が住む神社…
神社
神、社
神様の、お社
社…
や
し
ろ
やしろ―――
八代!!!!
その名前を思い出した途端にもやが一気に晴れた。