憂と聖と過去と未来3-10
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あたしはチャイムと同時に制服を脱いだ。
一瞬、近くの席に座っているクラスメイトが驚いて声をあげたが、下が体操着だと気付くとすぐにまた静かになる。
グループの子に先に行くと伝えて、あたしは急いで教室を出た。
チョコは授業に持参する体育館シューズ入れに前もって隠しておいたので抜かりはない。
あ、ごめん、聖。
一言だけ頭の中で聖に謝ると、走って二組の教室に向かう。
一直線の廊下なので、すぐにたどり着いた。
目立たないように教室を覗くと、聖はいない。
もう自動販売機の所へ向かったらしい。
急いで階段近くの自動販売機へ向かった。
「はぁ…はぁ…いた」
幸い、周りに人はいない。
聖は自動販売機の前に立ってボタンを押している。
もう…後ろ姿さえも愛おしい。
見慣れた背中に飛びつきたかった。
「聖っ!」
あたしの声を聞いて、聖がゆっくり振り返る。
「…憂」
学校で普通に話しかけられたのが意外だったのだろう。
ひどく驚いた顔をしている。
当然のように、困った顔もしているように見えた。
「……お前は声がでかい」
「……あはは」
「…どうしたんだ?体育の前みたいだけど、もう息切らして」
「ちょっと、ね」
「…急がないと体育、間に合わないぞ」
「うん、あのね、はい!これ!」
あたしは体育館シューズの袋から包みを取り出した。
「うわっお前!汚いだろ!」
さすがの聖もこれには動揺したのか、大きな声を出した。
「ちゃんと保冷剤入れてあるから、しばらくは保つと思う」
「……作ったのか?」
「うん、今年は迷ったから…簡単だけど」
「…そうか、ありがとう」
この言葉を待っていた。
ずっと、聖のその優しい声で言われるのを。
だから、やっぱり作った。
「じゃあ、またね」
さすがに時間がないのでそれだけ言って振り返る。
「……大切に食うな」
聖の声を背中に受ける。
なんだか努力を後押しされた感じがした。
「うん!」
あたしはそのまま走って体育館へと向かった。