僕らの関係 学園祭-17
「ふーん、それは何処に?」
「これです。じゃーん、手作りクッキー!」
里奈はジャージの懐からビニール袋で包装され、ピンクリボンの可愛らしい「小悪魔クッキー」を取り出す。
「まだあったの? それすっごい人気でどんどん売れちゃったから僕、全然食べれなかったんだよね。とっといてくれたんだ。嬉しいな!」
教室にあったクッキーは何故か久実と由香に食べられてしまったので、彼が食べたのは例の試作品のみ。疲れた体に甘いものは嬉しいと、幸太は嬉々として包みを受け取る。
「全部食べちゃっていいの?」
「うん。いいよ」
「わーい、いっただきまーす」
リボンを解いて一枚取り出す。チョコレート色はビターテイスト、大人の味らしい。どんなものかと期待して頬張る……が、舌先は甘みを捉えず、代わりに目を唾液の腺が痛いほど刺激される塩辛さを覚える。
「りっちゃん……これって……」
「えへへ……失敗作」
塩と砂糖を間違えたのだろうか、一昔前のドジっ子のような失敗をした里奈の手作りクッキーはまさに「小悪魔クッキー」だ。
「がんばって全部食べてね!」
包みの中にはまだ三枚残っている。つまりあと三回はこの悪魔のような仕打ちに耐えねばならないというわけだ。
――僕、りっちゃんに悪いことしたっけ? っていうか、この分だとあと二つも本当にタイヘンかも……。
二枚目を飲み込んだ辺りで喉が悲鳴を上げる。この前はペットボトルのお茶で無理矢理飲み込んだが、今はそれさえも無い。
「ホラホラあと二枚、よーし、がんばるコータに特別サービスしちゃうよ!」
何をサービスするつもりかは別として、今は一口の水の方がありがたい。しかし、期待に反し、里奈は後ろを向いてごそごそと蠢くだけ。
幸太は三枚目を口に含むと、舌が触れないように注意しつつ歯で砕き、強引に飲み込もうと目を瞑る。
「ダメだよ……ちゃんと見てくれなきゃ……」
目を開けるとおもむろにジャージのズボンを脱ぎ始める里奈がいた。上は既に脱いでおり、ピッチリとした白のレオタード姿になっていた。
「え、どうして?」
「だって、コータに里奈の晴れ姿、見せたかったんだもん」
鞄からバトンを取り出すと、狭い部室にありながらも器用に演技を始める。
右手で回していたのがいつの間にか左手に移る。里奈がくるりと一回転すると、小振りながらもお尻のラインの浮かぶヒップが見える。
正直演技よりも白い布に包まれた彼女の身体に目が行ってしまう。
しゃがんでみたり飛び跳ねたり、脚の付け根のきわどい部分が動く度に、幸太はツバを飲む。見惚れているうちに、いつの間にか口の中から塩気が引いていた。