僕らの関係 学園祭-12
「おーい、由香―」
体育着にゼッケンを着けた恵が手を振りながらやってくる。午前中はバスケ部の出し物に参加していた彼女は後片付け要員のはず。
「どうしたの恵、まだお店は閉めないよ?」
「いやさ、先輩がどうしてもっていうからね……」
「あ、いた!」
嬉々とした声を合図に恵の背後から女子が飛び出す。教室にはまだ客がたくさんいるというのに、女子は人ごみを縫うように目的の場所へと移動する。
「君が幸太君?」
「え、あの……僕が、幸太です」
「やーん、本当に小さい! 可愛いなー、食べちゃいたいくらい!」
その女子は本当に頭からかじりつきそうな勢いで幸太の頭をなでまわす。せっかく狼男に扮するための付け耳も折れてしまい、犬のようになってしまう。
「えっと、どなたですか?」
「あ、ごめんね。私は阿川美雪。恵の先輩なの。ユッキーて呼んでね」
上に丸い目を一杯に開き、幸太を食い入るように見る美雪は聞いてもいない名前をフルネームで答え、しかも恥ずかしいあだ名まで教えてくれる。
「ちょっと、アレ何?」
美雪の奇行に眉を顰める由香は、連れてきたであろう恵に尋問する。
「バスケ部の先輩。つか、さっきの走り見た? 試合じゃいつもあんな感じに敵のディフェンスをかいくぐるんだぜ!」
「そうじゃなくて、幸太ちゃんに何してるの?」
「あ、ああ……その、先輩にコウのこと話したら見にいくってきかなくってさ。でもまあお客さんだし、神様だよね?」
「ふーん、お客さんね……」
由香は幸太を抱きしめる美雪に内心煮えくりかえるものを感じならも、営業スマイルを忘れずにメニューを持っていく。
「お客様、こちらの席へどうぞ……」
「別にここにようは無いよ。この子に用があるだけだし」
しかし、美雪は由香には一瞥も返さずに幸太の頭をよしよしとなでまわす。
「当クラスの出し物は喫茶でして、他のお客様も増えていますので、注文が無いお客様には申し訳ありませんが……」
「それじゃあ注文!」
「はあ」
「この子!」
こめかみの辺りがピクリと動くのを感じる。
「そちらは当店のメニューにはございません」
「ぶー、恵、私この子きらーい。だって可愛くないんだもん」
「かわいく……」
即席の営業スマイルは皮が薄いらしく、今にも皹が入ってしまう。