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【純愛 恋愛小説】

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窓の外で花びらが力強く開こうとしているのがわかる。暖かみにノックされて、長い眠りの時を終えようと動いている。緩やかな風が僕の近くに小さなピンクを映えさせる。 あぁまただ、と僕は思う。瞳に溢れる雫を抑えることが出来ない。生きようとする生き物の姿は美しい。あの桜とシオリは似ているな、と僕はそう思った。
3月の陽射しがうつ向きがちな前髪を透かし、僕は久しぶりにシオリの顔を見る事ができた。いつもは前髪に隠れされるその顔は今でも、初春の匂いに侵されたかの様に生命の力に満ちている。「春ね」と言った彼女の唇が震えているのが見えて、僕はたまらず涙を流した。
「私の名前、なんでシオリっていうかわかる?」としばらくして栞は言った。
「見当もつかないな」と僕が質問を投げ返すと、彼女は手の平に舞い落ちた花弁を静かに摘まみにこう言った。
「本の栞ってあるでしょ? ほら、読んだページに挟むやつ。私の名前、その栞から来ているの。私の父さん本読むの好きでね? 貴方みたいに。それでね、本の栞のみたいに長い物語を見失ったりしない目印の様な印象的な子に育って欲しいって、そんな願いを込めてこの名前を付けたの。でもそれって酷いと思わない? だって私、物語の主人公じゃなくて、それを示す目印なんだから。」
彼女の表情が泣きそうだったから、僕は思わずどきりとした。
「でも、でもね。貴方の栞の使い方、嬉しかったなぁ」と摘まんだ花びらを指でクルクルと回しながらシオリは言った。
「どういうこと?」と僕が聞くと、彼女はとても素敵な笑顔を見せてくれ、優しくキスをした。
「好きなページを覚えておく為に栞を挟んでいたことあったでしょう? 自分が好きなシーンを、何度も読み返す為に挟んでた。それって目印じゃなくて、記憶だよね? 忘れたくないから栞を使う。そういう使い方なら、この名前も悪くないなぁって、そう思うの。」

読んでいた「ノルウェイの森」に涙の粒が落ちるのを見ながら僕は、ただ必死に、身を焦がすように、この時間が永遠に続けばいいと願っていた。


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