光の風 〈回想篇〉後編-12
「環明様にお仕えしておりました。」
貴未の笑顔は油断できない、千羅とはまた違う強さを兼ね備えていた。
「決まりだ。」
貴未の言葉に促され、レプリカは静かに貴未の手を取った。貴未は背中でカルサと千羅を呼ぶ。
ついさっきまで負の感情に身を委ねていた。いつまでもそれに酔い痴れている場合ではない、悩むのは後回しにして先に現状把握しなければ。それを貴未は言いたいのかもしれない。
有無を言わせない貴未のペースに素直に従い、その場にいた全員が一瞬にして姿を消した。
「おまたせー!」
貴未の声で意識を取り戻した。いつのまにか大聖堂に自分がいる事に気付く。
ここへ来るのは2回目だ、そうぼんやりと頭の中でレプリカは呟いた。前回はちゃんと周りを見る事が出来なかったが、改めてみると豪華で丁寧な造りにため息が出そうになる。
何故か懐かしい感じもした。ゆっくりと視線を横に流していくと一際目を引く瞬間があった。よく目を凝らしてみると人がいるのが分かる。
「ナル様!?」
勢い良く踏み出しレプリカはナルの方へ駈けていった。
「待って。」
静かな瑛琳の声にレプリカは足を止めた。いつのまにか横に立ち、覗き込むように語りかけてきた。淋しそうな表情に思わず見とれそうになる。
「結界を外すから。静かにゆっくりと進んで。」
素直に従い、ゆっくりと一歩ずつ足を進めていった。血の気のない顔は全てを物語っている。おそらくもう二度と、ナルは微笑みかけてはくれないと分かった。
「ナル様!」
傍に立ち止まった瞬間、レプリカは膝から崩れ座り込んでしまった。涙を堪え、全身を震わせながら、やっとの思いで彼女の手を取る。片手で掴んだ手は冷たく、温めようとするように両手で強く握った。
それでもナルの反応はない。
レプリカは必死で歯を食い縛り、決して涙を流さないように堪えていた。
「レプリカ。」
後ろから聞こえたのはカルサの声、それに応えるようにゆっくりと振り返った。いつしか全員が祭壇に集まっていた。
「皇子。」
ナルの顔を見つめ、カルサは静かに傍に行き横に座った。レプリカはすがるような思いで彼を目で追っていく。誰がどんなに強く願っても、ナルの体は動かない。