多分、救いのない話。-7--13
「……弟? お父さんが、弟? メグのお父さんは、みーちゃんの弟?」
「返して……」
既に原形を留めていない《物体》から、女に縋りつく水瀬先生の目からは、正気が消えていた。
「ねぇ? 知ってるんでしょ? ねぇねえねえねえねえ知ってるんでしょ知ってるわずっと知ってたんだから知ってるはず知ってるのよあなたは知ってるの!!」
「ねぇ、弟? ……おとう、と? おかあさん? なに? おとうとって、なに?」
神栖はまるで幼児のように、現状認識が出来ていないようだった。
とにかく、守らないと、この《怪物》は、人を喰らう《怪物》から、生徒を、守らないと守るんだ守る守れ!!
「神栖、神栖……だめだ、だめだ。あれは」
「慈愛」
だけど、全ての元凶の声は、空間を凍らせる力があった。
「――――」
アイコンタクト。それだけで、神栖は今までの緩慢な思考が嘘のように、走る。
とっさに追いかけた。すぐに追いつき、あの暗証番号の扉の前で、がちゃんと扉が、《閉まった》。
「先生? 申し訳ないんですけど」
クスクスと、こいつだけがずっと変わらずに、微笑んでいた。
コリコリと、《何か》を噛みしめ、味わいながら。
「――しばらくここにいてもらいますね? 色々と、雑事がありますから」
「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………」
生徒の謝罪が虚ろに響く。
葉月真司と水瀬奈津美の『秘密基地』での生活が、そして始まる。