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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-7--12

「み、水瀬せん」
「みーちゃん?」
「…………」
「みーちゃん、みーちゃん……」
 神栖は虚ろな人形のように、ふらふらと奥に行く。
 母親はそれを止めようとはしなかった。
 先程の悲鳴がまるで聞こえなかったかのように平然としている。
「先生?」
「……」
「……見て見ぬふりをしていただけません? じゃないと、娘が悲しみますから」
「何言ってる? 何をした!?」
「まあ、そうなるでしょうね。私は別にかまいませんよ。ちょっと刺激的な光景だったのでしょうね」
 その含みを持たせた言い方が、酷く不吉で。
 それ以上目の前の女の声を聞くのが耐えられなくて。

 人生最大の間違いの扉の奥を、葉月真司は見てしまう。

「う、ぐ……げ」
 ……最初に目についたのは、様々な赤だった。
 鮮やかな赤、どす黒い赤、ちょっと黄色味がかった赤。赤にこれほど種類があったのだ。
 次に、まるで人形のような、《物体》。だけど、それには。

 左腕がなかった。右足は膝から下がなかった。耳は両方なかった。眼球は一つしかなかった。左腕があるはずのところには青白いひも、多分神経が伸びていて、白くて硬いものがはみ出ていた。頭は球形じゃなく凹んでいて、凹んだところから脳漿が零れていて、胸は無理矢理こじ開けられて肋骨がバキバキと折れていて髄液が出ていて黄色い脂肪と桃色の臓器は腸が零れて左胸にあるはずのものがなくて、つまりいろいろと目の前の物体からは色々消えたものがあって、

「――あなた……」
 後ろから出てきた女は、うっとりと夢見るように、その《物体》に近付く。
 女は、その《物体》の、頭らしきものの、唇らしきものに……口づけをする。
 じゅるじゅると、《何か》を啜る音が聞こえて、

 ブツン

 唇が離れ、女の口には血交じりの唾液がつーっと垂れて、
 そして《物体》の口らしきところから、舌らしきものが、消えて、消え、何処に、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
 水瀬先生の、叫び声に、見ているものが現実だと悟らされ、葉月は胃の中のものを全部出してしまう。
 胃液の味がさらに吐き気を増長させるが、どうでもいい、どうでもいい!!!
「おま、お前、狂ってる!!」
 叫ぶ、そうでないと目の前の光景の一部に自分もなってしまいそうだったから。
「ねぇ、ねぇ。……わかる?」
 だけど、既に手遅れが、一人。
「お姉ちゃんだよ……ずっと、探して、さが、さがさがさ違う!!」
 水瀬先生は立ち上がり、《物体》を更に壊す。壊す、壊す壊す壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!! 
 私の弟じゃない、弟はこんなんじゃない!!」
 その破壊を、見つめる少女。


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