多分、救いのない話。-7--11
「……いないって言っても信じないのよね?」
「いるんでしょう!! ずっと、知らない知らない知らない、嘘つき!! ずっと知ってたくせに、知ってたのに!!」
「知らないのは本当だったのだけれど、まあいいわ。……奥にいるから」
その言葉の真偽をはかるかのように。先程までの狂騒は一転し、水瀬先生は神栖の母親を睨む。
「慈愛を放して。そしたら奥に行ってもいいわ」
言葉の奥の奥の意味を探る水瀬先生は、疑いを捨てきれずも神栖を放した。
母親は神栖に駆け寄り、「大丈夫、大丈夫」と、優しく声をかけ続ける。
対して、まるで神栖と一緒に魂まで手放したような水瀬先生は、呆けてなかなか一歩を踏み出せずにいた。
「奈津美さん?」
神栖の母親は、優しく穏やかに、嬉しそうに愉しそうに、――まるで性的な興奮を得ているかのように、現実から乖離した微笑みを浮かべながら。
「行ってもいいわよ? ……でも」
クスクスと。その笑声を向けられたわけでもない葉月の方が、背筋が凍る。
「知らない方が、いいってこともあるのよ?」
「……何を、知らないっていうの?」
「確かめればいいわ。奈津美さんがずっと求めていた人は、すぐそこにいるんだから……ふ、ふふ、ふふふあはははははははははははははははは……!」
その笑声は、異様だった。
まるで、意思が通じ合える気がしない。自分とは、いや。まるで……人間すら止めているような、《怪物》の声。
「…………」
そんな怪物に負けじと、水瀬先生は奥に進んだ。
……いいのだろうか? 止めた方がいいんじゃないか。
だけど、水瀬先生のあの様子から、とても自分には止めることは出来ないだろうとも思った。
「神栖、大丈夫か……?」
「……お母さん」
「大丈夫よ」
ゆっくりと、安心させようと抱きしめながら、だけど現実から乖離した微笑はそのままに。
「奈津美さんにはちゃんと罰をあげるから」
全てを引き裂くような悲鳴が耳を貫いたのは、その時だった。