DEAR PSYCHOPATH−7−-1
『本名、ヘンリー・リース・ルーカス。売春婦だった母から、幼い頃よりサディスティックな虐待を受け、父親は彼が十三の時に肺炎で死亡。そして彼は十四の時、十七歳の少女を強姦し殺害した。これが彼にとっての始めての殺人ということになる。
そして、次の犠牲者はヘンリーの母親。彼は彼女の喉元をナイフで裂き、殺害。四十年の刑でミシガン州立刑務所に収監された。この間、分裂症状と自殺未遂を繰り返し、精神病院に移送される。しかし彼は、出獄したその日から殺人を再開。その後七年にわたり三百人以上を殺害した。また、彼は四十でベッキーという少女に出会う。
彼はベッキーにあふれんばかりの愛着を覚えた。後に、二人は殺人旅行へと旅立つ。
そしていつしか彼らは夫婦として暮らすようになった。が、別れはすぐに訪れた。
ベッキーがある男に理由もなく殺害されたのだ。その男の名は、エド・ゲイン』
ケイコさんのコンピューターが映し出した画面は、そこで終わっていた。しかしそれは、僕にとって十分すぎる程の情報だった。僕は彼女の肩ごしから顔をのぞかせながら、両目をしばたき、この画面からおおよそのことを理解すると、やっとのことで胸を撫で下ろすことが出来た。つまり、話をもっと簡単にするとこういうことだ。僕
の前世であるヘンリーは、凶悪な殺人者であり、夢の中でいつも一緒にいたベッキーは、未来の僕の奥さんになる人物だったのだ。そして、これは僕の推測でしかないのだが、彼は殺された彼女の敵をとるために覚醒しようとしているのではないだろうか。
「理解、出来ましたか?」
もう一つの椅子に腰かけながら流が言った。
「まぁね。あれだろ。全員このエド・ゲインとかいう奴に対する復讐で覚醒しかかってるんだろ?」
彼は頷いた。
「みんな、あなたと似たような恨みを持っている者たちです。勿論、私もね」
「そういうこと。目的は一つよ」
ボロボロのジーンズに、白のTシャツというラフないでたちのケイコさんが言った。こんな格好でも、美人はものすごく様になるものだとつくづく思う。本当、子供っぽい鈴菜とは正反対のタイプだ。ただ、一つだけ強がりを言わせてもらえば、鈴菜がケイコさんみたくなれないように、ケイコさんもまた、鈴菜のようにはなれないということだ。まぁそんなことはどうでもいいことだけど。気をとり直して僕は、腕を組んだまま突っ立っている流にきいた。
「エド・ゲインの現世は誰か分かっているのか?」
「はい」
彼の即答で、一瞬言葉に詰まる。
「誰?」
しかし次の質問にそれはなかった。一刹那、流の表情にはためらいの色が生じ、僕もそれを見逃しはしなかった。
「言えよ」
低い声で答えを促す。だが、彼だけならまだしも、目の前にいるケイコさんまでもが黙りこくってしまって僕の質問に答えようとはしてくれない。何がそんなに彼らをためらわせているというのだろう。と、そう思った時だった。
「忍は、最近話題になっている連続殺人事件について知っていますか?」
沈黙を守っていた流が、不意をつくように口を開いた。
僕は無言で頷いた。彼の言っている『連続殺人事件』とは、そりゃあもう言葉では言い表せない程の残虐性を持ったものらしく、最近では毎日のようにニュースやワイドショーに登場してくるくらいだった。
「その殺人事件の犯人が、おそらく、エド・ゲインではないかと。いえ、確実に彼でしょう」
「そうだという証拠でもあるのか」
「はい。殺しの手口が、彼と同様のものであることと、もう一つはこれだけの人間を殺害しても証拠一つすらつかませないこと。サイコパス特有の手口と高知能な行動がそれを照明しています」
「つまり、僕らはこの犯人を見つけ出して殺せばいいと?」
「そうです。犯人を殺したと同時に、ここにいる全員の呪縛が解かれるはずです」