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DEAR PYCHOPATH
【サイコ その他小説】

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DEAR PSYCHOPATH−7−-2

 殺人という言葉に後込みしながらも、僕はどこか胸を撫で下ろしている所があった。それは多分、エド・ゲインが前世とかわらず、現世も凶悪犯罪者だと分かったからだと思う。これが今では善良な一市民だとしたら、きっと罪の意識に押しつぶされて違いない。けれどふと考えてみる。罪のない者の命は重く、罪深き者の命はそれを狩ろうとする者にも、さほど罪悪感を抱かせず、そればかりか微かな誇りさえ持たせてしまう程奇妙な軽さがある。それならば、それを持った僕らもまた、罪深き者になって、この命もごみのように軽いものにかわってしまうのだろうか。しかたのないことだけど、正直、かなりつらい。
 「忍」
 流が僕の肩に手を置いた。
 「次はエド・ゲインについですが教えておいてあげましょう」
 僕は頷いた。
 彼は一度、小さな咳払いの様なものをすると、今度はエド・ゲインについて説明し始めた。
 「本名はエド・ゲイン。ウィスコンシンシュウ州のバーで一人の女性を射殺。またある金物店では中年の女主人を殺害。死体は両方とも自宅へ運び、それを使って皮膚で出来た太鼓や衣服、頭蓋骨で石鹸皿などを制作。他にも窓際に唇を飾ったり、壁には本物のデスマスクを飾っていたそうです。キッチンにはグラスに四つの鼻、レンジの上のフライパンには心臓も見つかっています。他には・・・」
 「もういいよ。もうたくさんだ」
 僕はまだ話を続けようとしている流を、吐き捨てるような言葉で遮った。
 「気持ち悪い。何だよそれ。殺人とか・・・そういう・・・それ以前に人間じゃないんじゃないの?」
 うんざりしている僕を、彼はキョトンとした顔で見つめ、
 「それでは質問しますけど」
 と言った。
 「あなたは、釣りあげた魚を食べるために、いえ、何も魚に限ったことではないのですが、とにかく、何かしら手を加えなければならないような食べ物があった時・・・迷わず調理しますよね」
 「ああ」
難無く頷く。
 「それと同じことですよ。ただそれが・・・人間という名の材料にかわっただけの話でね」
 瞬間、僕は脊髄に電流が走るような不快感を感じ、そうかと思うと次には体中に鳥肌を立たせていた。心底、恐怖というものを感じたのだ。流は・・・彼は、この集団の中で比較的僕に近い位置にいるのかと思っていた。カムヤや隆は全く違う次元の人種だし、ケイコさんもまた、二重人格という特別な人間だった。けれど、この須貝流という男はそんな非人間的特徴も見られず、だから余計に彼を自分に近い者だと思い込んでいた。しかし今になってようやく気がついた。全て僕の勘違いだったのだ。流が与えた芯からくる恐怖。これは彼が一刹那、僕に見せた恍惚の表情にあった。何を思ってそうなったかは分からないが、その中には確かにサイコパスを象徴するものがあった。言ってしまえば(僕以外の)ここにいる奴ら全員が殺人鬼エド・ゲインと何等変わらないということだ。ただ一つ、
まだ殺しをしていないということを除けば。
 「忍?」
 そして、いつも涼しい表情で彼が言った。
 「戦いはもう既に始まっています。油断しないでくださいね」
 「わかっているよ。でもそれはここにいる全員に言えることだぜ?」


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