恋愛の神様・前編-6
ヤバい。
ヤバいぞ、絶対ヤバい。
どうすりゃいいの?
また祈れば元に戻る?
場所が関係あるとか?
保健室のあのベッド?
精神状態?
苛立ち?
天気?
何がなんだか分からない。
でもこれが現実。
並んで歩くこの子が祐希に間違いないんだ…。
だけど、そうだとしても、大人しくこの事実を受け入れられるほどあたしは諦めが良くない。
恋愛の神様の仕業なら、昨日と同じように願ったら元に戻るかもしれない。
安易だけど他に名案のないあたしは早速その日の午後保健室へ走った。
「…さて、」
意気込んで乗り込んだはいいけど、どうしたものか。
大体同じ事をしたらいいって言っても、あたし特別な事なんてしてないもん。
ただ頭の中で考えてただけ。
とりあえず保健室のベッドに寝転んでたっぷり二時間、うんうん唸り続けた。あの時と同じ様に力を込めて、強く願って…
大方の予想通り、そう簡単に元通りになるわけもなく。それならばとそんな事を二日続け、ついに三日目。
当然とも言える補習のお声が担任からかかった。
教室に一人残されて、机の上にはプリントの束。
「最悪…」
うなだれてその上に突っ伏した。
この仕打ちは何!?
訳の分からない現実世界に投げ込まれてそれを打破しようとしてるだけなのに、大量に出された課題をやるだけやってやれない分は宿題だぁ?
あたしそんな暇ないのに!祐希を元に戻せるのはあたししかいないのに―――
「実果」
教室のドアが開く音と同時に現れたのは、すっかり変わり果てた姿の想い人、と…
「よー、サボり魔。補習ご苦労」
相変わらずの邪魔者、八代。
「大変だねー」
祐希はそう言ってパックの緑茶を差し出した。
それをあたしが受け取る前に横から八代が奪い取る。
「甘やかすなよ、祐希。こいつの場合自業自得だ」
それを無理やり奪い返す。
「あたしはサボってない!」
「元気いっぱい登校しといて午後になると同時に走って消えて行ったら、誰だって昼寝してると思うだろ」
「してない!!」
「そうだよ、八代。実果は本当に調子悪いんだよ。ね、実果」
「…そうよ」
「あ、今声が小さかった」
「八代うるさい!」
「そうなの、俺ってうるさいの」
「ていうか、暇ならー…」
手伝えって言う前に八代はプリントの束から一枚抜き取って席についた。