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-3

「どうして、あんな莫迦な事をしたんだ?」
 威厳を保とうと、腕を組むシカミ。
 するとハヤチは不思議そうに小首を傾げる。
「莫迦な事?」
「そうだよ。僕はハヤチが死んだと思ったんだ。ずっと一緒にいたいと言ったのに」
「あら、私が嘘をついたみたいに言うのね。シカミと一緒にいたいから、こうして会いに来たのに」
「私は本当のものが見たかっただけ。本物を感じたかっただけ。だって、施設にあるのは白いタイルだけだもの」
 その事に関しては昼間、嫌と言うほど痛感していたシカミはハヤチの言葉に思わず頷いた。
「私がシカミと一緒にいたいと言ったのは本当のことよ。心の底からそう思うわ」
 しかし、言葉とは反対にハヤチはシカミから離れて行く。
 慌ててハヤチの体を捕まえようとするシカミ。
 しかし、確実に掴んだ筈の少女の体は一歩後ろに下がっていた。
 もう一度手を伸ばすシカミ。
「どうして逃げるんだ!」
 ハヤチを捕まえようと叫ぶシカミ。
 しかし、やはりハヤチの体は一歩後ろに下がっている。
「私はいつだってあなたと一緒だわ」
 悲しげに微笑むハヤチ。
 次第にシカミとの距離が離れて、少年は悲痛な叫びを上げる。
 手を伸ばすシカミ。
 手は虚しく空を切り、シカミは弾かれたようにベッドから半身を起こした。
 全身が冷や汗でぐっしょりと濡れ、鼓動が早鐘のように踊っている。
 大きく息を吸い込み呼吸を整えると、シカミは自嘲気味に笑った。
「この部屋に窓なんて無いって知っていたのにな」
 そう呟くと、シカミは濡れた服のまま、窓のあるエントランスへ向かった。
 窓の外の景色は相も変わらず色のないものだった。
 厚い雲で覆われた空は昼も夜も変わらないが、雲の向こうで陽が昇れば僅かに空が白くなる。
 仄暗い空の下、地平線の彼方に浮かぶ前史代の廃墟は、まるで人類の墓標にも見えた。

終。


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