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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷【番外編】―心の音M-3

「こんなことになって暫くは目立つ行動して来ないと思うけど、注意した方がいい。僕も協力…」
「あのね、葉月君」

私は葉月君の話しを遮って。する、と続けたその声は、私の声と重なり小さく聞こえて。葉月君の綺麗な眉が、ぴくりと微かに動いた。

「助けてくれてありがとう。あの時、来てくれていなかったらって考えたら、今でもぞっとするわ…でもね、葉月君が私に近付いていなければこんなことにもならなかった。葉月君はノロへの当て付けの為に私を利用しようとした。そうでしょう?」

驚いたように葉月君の目が大きく見開かれる。

「知っていながら放って置いた私にも責任はある。だから、責めたりしないわ。でもね、もうこんなふざけた遊びは終わらせて」

落ち着いた口調で話しながらも、さっきから私の胸はズキズキと痛み、悲鳴を上げている。

葉月君は何かを言おうと口を開いたけれど、聞くのが怖くて。

「迷惑なの…」

私はそう言って、葉月君を突き放した。
葉月君の顔を見ることが出来ず、私は目を伏せた。そして、今にも零れ落ちてしまいそうな涙を、ぐっ、と堪えることしか出来なかった。

本当はどんどん惹かれているのに。
だからこそ、このままではいけない。
もう後戻りは、できない―――。

お互いに口を閉ざしたまま、重苦しい空気が流れている。すると、騒々しい足音が近付いてきて、荒々しく扉が開かれた。その振動で、薬品が並べられたガラス張りの棚がガシャン、と音を立てる。
扉の前にいたのは、これでもかってくらいに目を吊り上げ、て怒りをあらわにしたノロだった。そして、中に入るやいなや、真っ先に葉月君の胸倉に掴みかかった。

「このやろぅ…!」
「やめて!!」
「こいつのせいでナッチーは…」「お願い!ノロ、やめて!」

私は思わず、悲鳴のような声を上げてしまった。その途端、保健室はしん、と静まり返る。振り上げられた拳は行き場を失い、力無く下ろされた。

「お前が憎んでる相手は俺だろ。俺は何されたって構わない。でも、頼むからナッチーを巻き込まないでくれ…」

先ほどまでの勢いは引っ込み、悲しそうに瞳を揺らすノロは、随分と弱々しい声でそう言った。
葉月君は、ごめん、と小さく呟いて。その間も私はずっと俯いたままだったから、葉月君の表情は分からなかったのだけれど。静かに扉が閉まる音が聞こえて顔を上げると、葉月君の姿は見当たらず、彼が部屋を出て行ったのが分かった。そして、葉月君のあとを追って優磨君までも出て行ってしまうと、保健室はまた嫌になるくらいの静けさを取り戻す。
ぐっ、と我慢していた涙がついに頬を伝って。そしたら、もう止まらなくなってしまって、声に出して私は泣いた。その間、誰も何も言わず、ただ私の側にいてくれた。

―ねぇ、楽しかった?
葉月君にだんだんと惹かれていく私を見て、あなたは満足だった?

聞きたくても聞けない。胸の奥につっかえて、それは言葉にはならなかった。
だって、口にしてしまえば、本当のことになってしまうから。そんなの悲し過ぎるじゃない。
私は返事のない質問を、心の中で繰り返し問い掛けて、涙を流すことしか出来なかった。
これは、葉月君への最後の強がり―――。


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