やっぱすっきゃねん!VE-10
多島中と青葉中。初回、2回と互いに無得点に終わった。
そして3回表、多島中の攻撃。バッターは7番キャッチャー。右打席に入ると、足場を固めだした。
(さっさとやれよ…)
2回までをノーヒット、特に3番、4番を三振に取って波に乗りつつある直也は、テンポ良く投げ込みたい。
しかし、そんな直也の思いなど知らぬかの如く、バッターは入念に足場を固め続ける。
「バッター。いい加減にしないか?」
「エッ?」
あまりの長さに、ついに主審から注意が飛んだ。
「すいません!つい、気になってしまって」
バッターは主審に頭を下げて謝ると、すぐに打席で構える。
「プレイッ!」
(イライラするなよ。コイツの思う壺だぞ)
達也は初球真っ直ぐを狙ってると読み、サインを送った。
(外のカーブ…)
直也はサインに頷いてワインドアップに入った。正面を向き、胸の前でグラブを構える。
人差し指と中指を揃え、親指との間隔を大きくしてボールを握った。
上げた左足を深く曲げて半身を大きくねじり、蓄えた力を一気に解放するように身体を前方に傾けた。
速い腕の振りから、人差し指と親指の間から抜くようにリリースされたボールは強い順回転を生んだ。
ボールはフワリと浮き、バッターの視線を高めと認識させてから、弧を描いて低めに落ちていく。
しかしバッターはタイミングを合わせ、落ちてきたところを強く叩いた。
強い金属音とほぼ同時に、乾いたグラブの音がした。サード乾へのライナー。多島中ベンチの歓声が嘆き声に変わった。
(正面で良かった。1メートルずれてたら長打だったな)
達也は打球の方向を見つめ、狙い球を読み間違えたと悟った。
結局、この回も3人で終わらせ、直也自身、投げるのが残り1回となった。
逆に、いよいよ登板が迫った佳代は、だんだんと気持ちに余裕が無くなっていく。
「田畑!ちょっとキャッチャーやってくれる?」
3回の守備を終え、ベンチに戻って来ると2年生ライトに声を掛けるが、田畑は困った顔で、
「あの…澤田さん、この回はバッター回って来ますよ」
「エッ、そうだっけ?」
「だって、7番からですよ」
佳代はうっかり忘れていた。いつもの打順ではなかったのだ。
「ゴメン!次の回に呼ぶから」
田畑の前から去ると、慌ててヘルメットと手袋を着ける。
「大丈夫か?澤田さん、かなりの緊張みたいだけど」
2年生キャッチャーの下加茂がニヤニヤしながら田畑に話しかける。
「…そりゃあ初めてのマウンドだ。緊張するなって言うのが無理じゃないか?」
下級生が言う通り、小学生で初めて試合に出た時と同じくらい、緊張をしていた。