僕らの関係 プロローグ きっかけ-8
「うん。たしか、気持ちいいはずだけど……」
射精が納まり始めるとそれに応じて里奈と恵の手を握る力が弱まり、しばらく荒い息をしていた幸太だが、それも徐々に整い始める。
同時に忘れていた羞恥が甦り、彼は三人の視線から逃れようと、その場に蹲る。
「……幸太ちゃん、痛くなかった?」
由香の問いかけに、幸太は無言で頷く。ただし「すん」という鼻汁を啜る音が混じった。
「気持ち、良かったのか?」
恵が言うと、やはり無言で頷く。そして続く鼻汁の音。
「幸太ちゃん、拭かないでいいの?」
由香はハンカチを取り出し、彼に差し出す。しかし、受け取る気配は無い。
「ひっく……いい、んぐ……ざわらないで……」
幸太の嗚咽交じりの拒絶に、由香はその手を戻す。
周囲には鼻を突く青臭い匂い。そして、すすり泣く幼馴染の姿。
ひと時の興奮が収まり、代わりにいたたまれない空気が漂い始める。
「ま、まあなんだ、その……コウも気持ちよかったんだし、それに大人になってたってことだろう? 良かったじゃないか!」
「そ、そだねー。コータも大人―、エッチなことしてもいんだねー」
明るく振舞うも虚しさが増すだけ。今までもイジメが過ぎて幸太を泣かせてしまう事はあった。が、常に慰め役を努める由香がいた。いつもなら由香が二人を咎めて仲直りというパターンなのだが、今回はいつの間にか由香が主犯格になっていた。
「じゃ、じゃあさ、あたし部活あるから……それじゃね……」
「え、あ、ケイチンズルーイ! ……んでも、里奈も行かないと。ってなわけだから、ユカリン、後お願いねー!」
「ズルイ、二人とも……!」
そそくさと教室を後にする里奈と恵。由香も逃げたしたくあるが、泣き崩れる幸太を置き去りにも出来ない。
「……由香ちゃんも行っていいよ」
「でも……」
今の彼に何を言えばよいのだろうか。焦る気持ちがあるものの、与えた傷も大きさもわからない彼女には、どうすることもできそうにない。
「……いいよ、行ってよ……皆どっか行けよ! 一人にしてよ!」
激情に駆られた幸太の言葉に促され、由香も立ち上がる。
今は彼の言う通り一人にしてあげるべきと、自分自身都合よく逃げようとするのを認めつつ、由香も教室を出る。
その後も彼のすすり泣く声が聞こえていたが、由香は足早に立ち去るほかになかった。