エンジェル・ダストC-5
「おまえ…何をやらかそうとしてんだ?」
「それは知らなくていい。とにかく頼むぞ」
それだけ言うと玄関へと向かった。
「ちょ、ちょっと待てよ!そんな話をしに来たんじゃねえだろ」
五島の右手が恭一の肩を掴む。
「おまえはオレにしか出来ないハッキングを頼みに来たんだろ!ちゃんと言えよ!その内容を」
「オレ自身、どうなるやも分からん。そんな話をおまえにして、若しもの場合はどうなる?
悲しむ人が居るのなら、聞いた以上のことを知ろうとするな」
冷徹な目が五島をとらえる。
「じゃあ、頼む…」
ひと言を残し、恭一は部屋を出ていくのだった。
───
その日遅く、恭一のオフィスを五島が訪ねて来た。
「ヨウ、さっそく来てやったぜ」
肩に掛けたダッフルバッグをテーブルの上に置いて、中からトランシーバーのような物を取り出した。
「こいつは盗聴器や盗撮器用の探知機だ。最近は便利になってな、こんな物も売ってるんだぜ」
「昔は自分で作ってたな」
「今でもそうさ。中身はオレが色々変えてるんだ」
五島は探知機を片手にオフィスの中をゆっくり移動していく。
「何か音を出してくれ。静かだと反応しないタイプもあるんだ」
恭一はテレビの電源を入れた。 途端に探知機から断続的なアラームが鳴りだした。五島がアンテナを壁に近づけると、アラームの間隔が徐々に狭くなった。
「…なんとまあ…」
小さなキャビネットの裏から、切手大で厚さ5ミリほどの黒いチップが見つかった。
その後も、様々な場所で探知機のアラームが鳴った。その度に五島は、盗聴器を手際よく外していった。
結局、盗聴器が6個見つかった。
「こいつらは、最近付けたモノだな」
五島は盗聴器のひとつを手に取った。
「最近って…?」
「このホットマイク(盗聴器)は、針の落ちる音さえひろうほどの高性能だ。
おまけに遠くに電波を送るタイプだから、バッテリーが長持ちしない。せいぜい1週間ってとこだろう」
他の4つも、10日もすればバッテリー切れになるタイプらしかった。
「そしてコレ。コレは他のヤツと違う。音を拾った途端に電源が入るタイプで、長期間、電池がもつんだ」
五島は盗聴器のひとつ々を確かめると、驚きの表情を恭一に向けた。
「これらは中国製だが、その辺で売ってるヤツじゃない。産業スパイや諜報機関が用いるヤツだ。おまえ、どこに狙われたんだ?」
恭一は、問いかけに知らぬ顔をすると、
「とりあえず助かったよ。後は地下のクルマだ」
「そうだったな…」
五島は気を取り直し、バッグから30センチ四方ほどの金属製の箱を取り出した。