エンジェル・ダストC-3
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恭一が幸子の実家を訪れて3日後、彼のオフィスに小包が届いた。
開けてみると、B5ほどの手帳が2冊に、A4サイズで黒いブリーフ・ケースがひとつ。
それに、恭一宛ての封筒が1通。
恭一は封筒を開けた。
“前略。
先日は、遠い処をお越し頂きお礼の言葉もありません。
主人の辛かった思いを知り、気づいてやれなかった事に無念でなりません。
松嶋様のお仕事に少しでも役立てればと思い、遺留品を送らせて頂きます。
かしこ
追伸、またお会い出来る事を願っております。”
キレイとは言い難いが丁寧に書かれた文字。幸子の思いが込もった手紙だ。
恭一は、便箋を丁寧に畳んで封筒に戻し、デスクの上に小包の中身を広げて目を通し始めた。
手帳は日記として用いられたのだろう。刑事としてでなく、父親として日々の生活が綴られているだけであった。
恭一はブリーフ・ケースを開いた。様々なサイズのメモ用紙が乱雑に収められている。
メモ用紙には、“大河内”や“防衛省”などキーワードとなる言葉は見つかった。が、それらは既に宮内から聞かされたモノばかりだった。
(やはり手掛かり無しか…)
半ば諦め掛けてた時、1枚のメモが目にとまった。
「“T=V 3年前からPより?”…何だ?こりゃ」
Tはおそらく東都大学を示しているだろうと解る。だが、その先が何を意味しているのかが解らない。
すべてのメモ用紙を見たが、その1枚以外に何も見つからなかった。
(このメモ自体も怪しいモノだが、他と合わせてチェックしてみよう。後は…)
恭一は携帯を開くと通話ボタンを押した。数回のコールで相手が出た。
「…もしもし、恭一だが」
「何の用だ?」
「おまえに仕事を頼みたいんだ。今から良いか?」
「仕事って…おまえ、裏の仕事は辞めたんじゃ…」
「コイツは訳ありでね」
相手は黙ってしまった。イヤな予感がするのだろう。しかし、恭一は構う素振りもなく、
「それよりどうなんだ?今から行って良いのか」
「いや、40…1時間後に来てくれ」
「分かった」
電話を切った後、恭一はそっと壁伝いに窓際付近に立つ。外からは見え難い位置。
道を挟んだ向かい側のビルの5階の窓。数日前まで空き部屋だったのがカーテンが掛り、その合わせ目から小さなレンズがこちらを伺っていた。