恋の奴隷【番外編】―心の音L-5
「なんだなんだ?ご機嫌じゃん」
学校でも何度も携帯を手に取りストラップを揺らしてみては、込み上げてくる笑みを押さえ切れず、口の端をすぅっ、と上げていると。ヒデがにやにやと笑いを含んだ声で話し掛けてきたわけで。私は慌てて携帯を制服のポケットに押し込んだ。
「そ、そう?いつもと変わりないわよ?」
「ふーん。でも顔にはしっかり書いてあるぞ」
「へ!?」
慌てて自分の顔をぺたぺた触り確かめてみる。
「…ぶっ!バーカ、冗談に決まってんだろ」
肩を揺すって笑い出すヒデを、私は横目でじろりと睨み付けた。
「ごめんごめん、そんなに怒るなよ。…でも、何かいいことあったってのはバレバレだぞ」
「何もないわよ」
うんざりして眉をしかめる私に、ヒデはちっちっと指を振る。
「隠してもむだむだ。恋する乙女の顔しちゃって」
「な、何よそれ」
柄にもないことを言い出すヒデに、私は顔を引きつらせた。
「思い当たる節はあるだろ?椎名か?それとも弟?お前ってなかなか面食いだったんだな」
「何でノロと葉月君が出てくるのよ」
「ったく、鈍いなー。好きなんだろ?」
「す、好きぃ!?」
驚いて大声を上げると、教室にいた人達が一斉にこちらに注目したものだから、私は慌てて両手で口を抑えた。ヒデは目を細め、けけけ、と意地悪い笑い声を上げる。
「ば、馬鹿なこと言わないでよね!好きとかそうゆうのじゃないってば!」
ヒデはさっきまでのおふざけ顔をひゅぅっ、と引っ込め、急に表情を厳しくする。
「椎名には好きだって言われてるんだろ?ま、そりゃ俺達の前でも散々言いふらしてるから知らない奴はいないだろうけどな」
「う゛ぅっ…」
「椎名弟のことはあんまり知らないけど、お前を奪い合ってるって噂だ。自分の中ではもう決まってるんじゃないのか?どっちにしろ期待させるようなことはしない方がいい」
「き、期待させるだなんて私は別に…」
「お前のことをよく思ってない奴だってこの学校にはいるんだぞ。イケメン兄弟から好かれて、ひがむような奴らがな。
もっとちゃんと自分と向き合えよ。どんなに好きでも実らない恋だってあるんだ」
寂しそうに笑うヒデを見て、胸が潰れそうになる。つい先日、ヒデは長い片思いに幕を下ろしたのだ。ここ最近の柚姫をすぐ傍で見ていて、彼女が弟である優磨君に惹かれているだろうということは、察しがついていたのだけれど。私はヒデに何も言ってあげられなくて。そんな自分が情けない。柚姫の背中を押す資格なんて私にはなかった。だって、私は自分の気持ちから逃げていた。甘えていた。私はとてもずるい。
そして、それから数日後、ヒデが言っていた忠告を私は思い知らされることになるのだった。
ある日の休み時間、柚姫と廊下を歩いていると、ドンッ、と誰かの肩にぶつかった。