『あたしのビョーキ』-9
「ふーん、で、それで、なんなのさ……」
極めて冷静に言ったつもりだけど、声質がおかしい。なんつうか、うわずるっていうか、舌なめずりしてるっていうか、そんな感じ。
当然か。だって、目の前に釣り針が垂れてるんだもん。
「恵ってさ、女の子のクセにカッコイイよね。だから、お友達になりたいなって思って……」
はいはいはい、きましたよ、あたしの時代だ。オッパイ触らせて揉ませてからなる友達なんて一つしかないでしょ。
冷静をかなぐり捨てたあたしは、芳江をロッカーに押し付け、手首を捻りあげる。
「ちょっと恵、あたしはお友達って……」
ここは当然速攻でしょ? 焦る某もらいが少ない、のろまなアホウはなお少ないって!
「いいじゃん、そのつもりで誘ったんだろ? 人気のない場所にさ」
まさかこっちのほうまで誘い受けなんてびっくりだね。本日四つ目のファールだけど、退場にはあと一つ余裕がある。
「だって、誰かに誤解されちゃ困るし」
解かれたお下げ、黒髪が首筋から背中にかかり、うなじを隠す。
「誤解されることを想像した? いけない子」
シトラスの香りは嫌だけど、それだけでこの子を拒絶するのはもったいない。しっかりと首筋にキスしてあげると、その白い喉をひくりと動かし、気の抜けた声を出す。
「やん、……恵、そうじゃないでしょ。あたしと恵は敵同士……」
「試合中はね。けど、今は二人きりだろ? そんなこといって焦らすなよ」
今は何同士なんだろうな? 恋人未満だし、いわゆるセフレ?
「恵、やっぱりそっち系のシュミ?」
「人を好きになるのに、性別は重要じゃないよ」
はたしてそうかしら? だってあたし、男はそんなに好きじゃないし。
紫のジャージに手を入れる。スパッツ、パンツもお構い無しに、芳江の尻肉を揉み解す。由香や里奈以外に初めて触る女の子の肌にスゲー緊張するし興奮する。
あたしは出来るだけ冷静を装うけど、息はどんどん荒くなる。言うなればハーフタイムを越えた程度の上がりよう。いけないな。これじゃあ子猫ちゃんを不安にさせるよ。
どうすればいい? まずはキス? あたしのファーストキスだけど、この機会を逃す手は無い。
「芳江、こっち見て」
あたしは彼女の目を見ながらゆっくりと顔を近づける。
触れた瞬間だけ、彼女は目を大きく見開いたけど、すぐに唇に意識を集中させるように目を閉じた。
口を開いた彼女に、あたしは舌を差し出す。彼女の口腔内をさまようと、シトラスの苦手な匂いがするけど、何故か気にならない。というか、ちょっぴり苦い中に甘さを感じると、結構好きになれる気がした。