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『あたしのビョーキ』
【同性愛♀ 官能小説】

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『あたしのビョーキ』-4

***―――***―――***

 試合に向けて何度もフォーメーションを確認し、想定される攻撃に対応策を講じる。
 選手層の薄い少数精鋭な我がバスケ部の一番の敵は焦り。
 スポーツ、ゲーム、勝負、賭け事、etc……なんでも焦ったら負けだ。
 石井の口癖だけど、あたしはあんまり好きじゃない。
 でも、初めての試合のとき、ペース配分を考えなかった小学生上がりのあたしは、第三クオーター終了後、一人トイレで吐いていた。その後も体調が戻らず、勝利を噛み締めるチームメイト達を見ながら、オデコにアイシングをしていた。
 いわゆる「焦るなんとか、もらいがすくない」ってことだ。

「恵、もっとぶつかっていって。それじゃ抜かれるっつうの」

 顧問の石井は低い声で檄を飛ばす。
 三十路も後半に差し掛かり始めた彼女は、今だ独身。たまの休みも試合の引率に借り出される彼女に出会いなどあるのだろうか? 人事ながら心配になる。
 最近、近くの高校のやっぱりバスケ部顧問の先生と会っているらしいく、「まさか密会ですか?」と部員一同色づいた。しかし、実のところは先輩たちの推薦の話だったらしい。まったく顧問の鑑だ。たまには自分の恋でも探せばいいのに……、いや、探せるだけ羨ましい。

 だってあたしは……。


 レギュラーと補欠の入り乱れた紅白戦。そうそうにボールを確保したあたしは、チームメイトの行動を予測しながらドリブルを続ける。
 日野先輩が体当たりに近い形で仕掛けてくるが、そう簡単に抜かせるわけにはいかない。普段の上下関係など、コートの中では通用しないのだ。
 ロングパスに見せかけて、後ろに迫る一年の島田ちゃんにパス。だけど日野先輩はマークを外さない。ボールに集まるなんて素人のやることだ。そして、振り切ることが困難なら、逆にマークさせればいい。
 味方はどんどん相手ゴールへと上がっていく。だけど、日野先輩は冷静に自分の仕事をする。スリーポイントのラインからゴールを狙えるあたしを警戒しているんだ。

 ゴールに迫った島田ちゃんがシュートを狙う。だけど、相手チームの懸命なディフェンスに阻まれ、ボールはあさっての方向に跳ねる。

「リバウンドー」

 ベンチからの掛け声に冷静だった日野先輩もあたしのマークを外れ、ボールに向かった。
 チャンスだ。
 あたしは一人下がり、ボールの行方は目だけで追う。

 背丈は無いものの、すばしっこさが売りの二年、木皿サンがボールを確保する。けど、すぐに囲まれる。そしたら島田ちゃんが颯爽とパスルートに入り込み、リレーする。
 ゴール下まで攻め込むものの、守備に長けている西川内レギュラー陣はしっかり上がり、シュートを打たせない。しかし、彼女は振り返ることなくあたしにボールをよこす。
 この子のパスはかなり正確だ。まるで後ろに目がついているように。
 マークは無い。フリースローなら目を瞑らなければ七割がた決めることが出来る。
 右手と身体のラインをゴールにしっかりあわせて、軽くジャンプしながらボールを放つ。散々繰り返してきたフォームだ。今回も完璧の自信がある。

 綺麗な山なりの放物線を描き、吸い込まれるようにリングをくぐると、ネットが軽く揺れ、気の抜けた音を立てた。
 電光掲示板の数字にプラス三。七点差だけど、タイムはまだ一分近くある。いくら紅白戦だからといって負けるつもりも無いし、このままガンガン攻めるさね。


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