『あたしのビョーキ』-22
「でも、結局は時間が解決してくれる……っていうか、そういうのを知る以外に解決する方法もないわけ。今はわかってくれなくても、その内。もしかしたら恵と今以上になれないかもしれないけど、その子、理解してくれると思うよ。だって、恵のこと好きなんでしょ?」
「待てっていうんですか?」
「そうね」
そんなの性に合わない。っていうか、瑠璃は可愛い子だし、指咥えて見てたら他の男にもってかれちゃうよ。
「あたしの彼はただの小学生。でも、私のことすごく大切に思ってくれてた。おかしいよね、小学生が大切っていっても、そんなのね……」
「そんなこと、ないですよ」
空気を読んで答えたまでだ。けど、そうであってほしい。だって、道に外れた好意を寄せられたあたしだもの、否定なんて出来ない。
「ある日突然好きになるにしても、ちょっとしたきっかけがあるものよ。他の人から見ればなんでもないことでも、当事者にしたらとっても大きなこと。なんていうかビョーキよね」
「病気って」
「違う。ビョーキ。ちょっとずつ、少しずつ心と身体を蝕んでいくビョーキ」
ビョーキ……か。確かに病気だ。いわゆる恋の。
瑠璃にあたしの彼女になってもらいたい。そういう気持ちってまだあると思う。
たとえそれが無理でも、あたしのこと、あたしを好きっていうことを、ただ気持ち悪いとかじゃなく、少しでもいいからわかってほしい。
指先が痒い。見ると赤く痣がついていた。どこかにぶつけたのかな? けど、なんか違う? ああ、噛み痕だ。左手の薬指の第二間接を赤くさせるそれは、まるでエンゲージリングみたい。
瑠璃め、このいたずらっ子。
あたしはそれに口付ける。
「……彼女がわかってくれるのを待つなんて消極的なこと嫌いですけど、でも、彼女の言った好きって言葉、信じたくなりました」
ブランコを勢いよく漕ぎながら宣言する。充分にテンションが上がったところで飛び降りて美雪のほうを振り返る。いわゆる爽やか、イケメンの笑顔でさ。
「そうね。恋は焦らずに、じっくりとね」
なんだか石井みたいなこと言うな。でも、さすがにあたしより大人だ。まさか、あっちのほうまでそうじゃないよね?
「それに、あんまり早いと嫌われちゃうし」
まったく、最後の一言がなければキレイに締まったのに……。