桜が咲く頃-4
『返事、遅くなってごめん…』
目に涙を溜めながら、微笑む鈴。
俺は力いっぱい抱きしめる。
鈴は俺の腕の中で、何度もごめんと繰り返した。
いいんだ…
鈴が側にいてくれるなら、俺はそれだけで
それだけで、幸せなんだ…
もう二度と、離さない――
俺は鈴をより強く抱きしめる。
そしてあることを思い出し、鈴をそっと離し、懐からあるものを取り出す。
『鈴に会えたら渡そうと思って…』
俺はかんざしを渡す。
鈴はそれを手に取り
『きれい…』
と呟いた。
『貸して』
俺は鈴からかんざしを受け取ると、鈴の髪にさした。
『よく似合う』
俺がそう言って笑うと、鈴は恥ずかしそうに笑った。
『ありがとう』
そう言って微笑む、俺の愛しい人…
『どういたしまして』
俺は鈴を抱きしめ、そっと口づけをした。
俺たちは暖かい風に包まれ、頭上では、桜が咲きはじめていた―─