あごがすきなんです。-9
「あ、あの、私……っ!」
今、何を…したの?
私は先輩から離れると、来た道をもう一度走り出した
…終った
終ってしまった…こんなことで…!
きっと明日には、私が変態であることが部内で周知の事実になっているんだ
退部願いを出すまで陰で罵られ、誰も目を合わせてくれなくなるんだ
いや、それよりも向こうからクラブ除名にすると言われるかもしれない
それより何よりも…
…先輩に、もう二度と笑いかけてもらえないんだ
私が走りながら泣きそうになっていたとき、後ろから声がした
「ちょ、っと小林さん…っどうしたの」
杉山先輩…
「もう、こんなキモい私に親切にしてくれなくていいです…!」
「何言ってんだよ、ねぇ」
足の遅い私にすぐに追いついた先輩が、私の手を掴む
「どうしたんだよ?何がなんだか分かんないから、ちゃんと話して」
こんな風に優しくしてくれるなんて、むしろ残酷だ…
「せ、先輩はきっと私の事を嫌いになるでしょう?」
「どうして、そんなの聞かないと分からないよ」
…もういい、どうせ嫌われるなら、徹底的に気持ち悪がられてやるっ
半ば自棄で私は先輩のほうに向き直った
「私はっ…先輩の顎が好きなんです!」
「……は?」
先輩は拍子抜けした顔で、私を見る
「自分がキモいってことは分かってます、でも私、人の顎のラインがたまらなく好きで…
でも今まで杉山先輩ほど綺麗な顎の人に会ったことなくて、どうしても顎に目がいってしまうんです
先輩自身も優しくて丁寧で大好きなんです、けど、顎にもどうしてもうっとりしてしまうんです」
恐る恐る先輩の方を見ると、考え込むような姿勢でこちらを見ている
「つまり…俺の顎に欲情するってこと?」
「えっいやその…」
物静かな先輩の口から予想外の言葉が出てきてぎょっとする