春の心、囀ずり知らず-1
チャポン…
小さく鳴る水音にまた泣きそうになった
なんでよ
なんで、私のせいになっちゃうのよ
『紗英さん、いい加減出ない?』
「……出ない」
『じゃあ、はい』
脱衣所と浴室を分ける扉を小さく開けて差し出されるミネラルウォーター。
あとローズのアロマオイル
ぐずぐず泣きながら飲めばほんのりとレモンが入ってるのに気づいてまた泣けてきた。
アロマオイルをたらせば香る匂いに癒されてささくれだつ気持ちが柔らかくなる気がした
こんな甘やかされちゃって私どうすんの…
「ハルーぅ…」
脱衣場の気配に声をかける
『ん?』
「私、悪くないよね…」
たぶん
自信がなくなってそう付け加えると鶯はなんとも男前に言ったのだ
『紗英さんが悪いなんて俺の中でだけは何があってもありえないよ』
あぁ…また泣いちゃう
仕事って楽じゃない
ホント、楽じゃない
ワリに合わないし、自分生け贄に逃げちゃう上司ってなによ…
後埋めに奔走しまくってクタクタにしなびた私を出迎えたのは鶯だった。
……正直、約束もなかったし、萎れた私なんて見られたくなかったけど追い返すわけにもいかない
「お風呂入りたいから……長いし、待たなくていいから」
「待って、紗英さん」
何よ!と八つ当たりで怒鳴りかけた私に鶯は言ったのだった。
「美味しいもん作って待ってるよ」
………正直、か…っなり魅力的だったのよね
仕方ないじゃない
疲労困憊、体くたくた……そこに美味しいご飯
うんとだけ頷いて駆け込むように入った浴室で少し泣いた。
鶯に優しくされる資格あるのかな、私って
自己嫌悪したって仕方ないのに自分で墓穴掘って泣いた