春の心、囀ずり知らず-2
また泣いてるのかな
あの人は
紗英さん意地っ張りだから
仕方がないけど
……よ、っと
フライパンで軽く炒めた豚肉にキャベツを加えて、あとは…みりん、砂糖、ハチミツ、醤油で照り焼き風にして…と。
疲れたときには濃い味が恋しいだろうから
スープは中華ベースにネギを散らしてふんわり卵でとじた
主食がこってりしてるからあっさりしていっか
俺が、紗英さんに惹かれたのは大人だったからでも色気があったからでもない
………ていうか紗英さん何気に子供っぽいし色気って………ねぇ？
健気に頑張る人だな
そう思ったのがキッカケだった
だから今だってきっと意地をはって一人で泣いてる
そんな紗英さんは愛しい
だってきっと頑張って悔しくて情けなくて、また頑張るために泣いてるんだろうから
そんなにまで頑張らなくていいのに、頑張ってしまう人なのだ
俺の好きな人は
本当は俺の前で泣いてくれたらって思う
でも実際泣かれたら俺は途方にくれてしまいそうだから
事実今の俺じゃ途方にくれてしまうだろう
……だから紗英さんも俺の前じゃ泣かないんだろうし
そこがまだ歯がゆくて情けない
脱衣場にあがる音に合わせて、体が冷えてしまわないようにホットレモネードを入れる。
「紗英さーん、ハイ湯上がりにどーぞー」
「…どうも」
ぶすくれた可愛くない返事すらカワイイと思う自分はそうとうこの人に参ってしまってるから
「紗英さんさー、今の仕事辞めれる？」
ご飯の準備をしながらそう聞くとやっぱり唐突だったのか紗英さんは怒るより怪訝な顔をした。
「辞めれる？」
畳みかけるようにきけば
紗英さんはちょっと笑って言った
（やっぱりな…）
「辞めれないよ……辞めたく、ないし」
「じゃ、続けてみなよ。もうひと踏ん張りだけ、ね？」
実は何回目かになるやり取りでも紗英さんは安心したように笑った