崩壊〜執心〜-2
「あっ!あっ!…んあっ!あっ」
絡めた2本の指が花弁を埋めて奥を突き上げる度に、快感はさらに高みへと導いていく。
そんな最中、涼子の頭に映し出されてたのは初めて抱かれた時の情景だった。
彼女が高校生の頃、唯ひとりと信じた男性との交わり。
だが、脳裏に浮かぶ、身体を重ねた男性は仁志の姿をしていた。
「はああっ!…あっ!…あ…んん!…」
その瞬間、涼子は身体を強張らせて昇天した。
(…な、何故、あの子が…)
昇りつめた余韻の中、涼子は自分が無意識の中で、仁志を別の目で見ている事に気づいてしまった。
それは恐ろしい事だった。
仁志が涼子の自宅を訪れて1週間が過ぎた。強烈な出来事から始まった彼女への思いは、次に親しみに変わり、憧れへと昇華した。
あの日から毎日、何度も携帯を取り出してはメールを確認してしまう仁志。ひょっとして、気付かないうちに涼子からのメールが届いているかもという思いからだった。
しかし、思いとは裏腹に、入ってくるメールは友人、知人ばかりで、ままならない事柄に仁志は次第に悶々とした日々を送っていた。
会わない日々が続いたおかげで、彼の頭の中での涼子はさらに美化され、親愛の情はさらに深くなって、今では、仁志の心に占める涼子のウェイトは以前より大きくなっていた。
そんな折、彼の元に涼子からメールが入った。待ちに待った待望のメールだ。仁志は慌てて開いた。
ディスプレイには“検査結果が出たので、明後日の7時に家に来てくれる?”と表示されていた。
仁志はすぐに“必ず行きます”と返信しようとキーを押すが、手が震えて上手く打てない。そんな自分に顔を赤らめる。
(なんなんだオレは。中坊みたいに舞い上がって…)
事実、仁志は今まで女性と真剣に付き合ったことが無い。そんな彼にとって、初めて心開ける女性が涼子だと彼は思った。
返信した後、仁志は先ほど彼女から届いたメールをディスプレイに映し出した。見つめるその顔は、微笑みに溢れていた。
仁志が涼子の自宅の最寄り駅に着いたのは6時半前だった。そこから自宅までは歩いて5分。指定の7時にはかなり早い。
そんな事は彼自身分かっている。しかし、思いがそうさせていた。
仁志は、真っ直ぐマンションの前に着いた。とりあえず中に入り、エントランス・ホールにあるインターフォンを押した。が、何の応答も無かった。
(確かに…こんなに早くちゃ帰ってないか)
仁志はエントランス・ホールで涼子の帰りを待とうと思った。
ここに居れば、少なくとも外気の寒さよりは幾分マシだからだ。
しかし、先日、ここを訪れた時と同様、マンションの住人と顔が会う度に見せる蔑すむような目が仁志に向けられた。
それを受け流せるほど仁志の心は強く無かった。
(外で待つか…)
仁志はマンションの玄関外に出た。近くにある自販機でホットの缶コーヒーを買うと、玄関から少し離れた植え込みに腰掛ける。
缶コーヒーを両手で包んで冷気で痺れた指を温めた。