人を愛するために(DQ[―主×ゼシ)-2
初めてみんなが戦うのを見たと思った。僕は今まで、いつも先頭で、いつも敵しか見ていなかったんだ。ゼシカの魔法がみんなを奮い立たせていることや、ククールが仲間全員に気を配って戦っていること、ヤンガスが敵の弱点を見定め攻撃していること。ちっとも気づいていなかった。
そろそろ戦いも終わりという頃、モンスターが最期の力でかまいたちを放った。それは真っ直ぐにゼシカに飛んでいく。
「ゼシカ!」
僕は声を荒げたけれど、体が動かない。ゼシカ!!
次の瞬間、猛烈な風の刃はゼシカの寸前で炸裂していた。赤い衣が見え隠れする。
「いやああっ!ククールっ!!」
ズタズタに引き裂かれた服から鮮血が吹き出す。刃が奥深くに至ったようだった。
「ククール!」
もう一度、僕の恋しい人が彼の名前を呼ぶ。
地面に広がる朱い血。恐ろしいほどに青白い顔。ゼシカの兄の最期と重なる。
「兄貴!トサカ野郎やっつけやした!」
ヤンガスの一喝ではっとした。
「ベホイミ!」
精神を集中して、ククールに回復魔法を施す。少しずつ傷が塞がり、顔色もほんのり紅が差してきた。僕とヤンガスはほっと胸を撫で下ろした。
「ククール?……お願い。返事、して!」
ゼシカが必死に呼びかけると、ククールはうっすら目を開けた。
「聞こえてるよ…。」
ぽんぽんとゼシカの頭を撫でる。ゼシカはやっと安心したのか、わっと泣き出してしまった。もう人が死ぬのは見たくないの、と。彼女が泣き止むまで、ククールは優しく頭を撫でていた。
ちくん、と僕の胸に痛みが走った。
あんなに優しい瞳のククールを見たことがなかったから。
ねぇ、ククール。
やはり、君は。
「エイトとククールがこの状態では、進めないのう。今日はここで休むか?」
馬車からトロデ王が声を掛ける。しかし、何かが僕をせき立てて、僕は妙に苛立っていた。これ以上、この二人を見ていたくない…。
「僕は大丈夫です。ヤンガス、ククールとゼシカを馬車に乗せて。」
「兄貴、まだ顔色が悪いでがすよ…。」
それには答えずに、早く乗せるよう促した。ヤンガスは渋々二人を馬車に押し込める。わざと二人には目を向けず、僕は笑ってトロデ王とミーティア姫に声を掛けた。
「ベルガラックで、ゆっくり休みましょう。」
それっきり、後ろには目もくれず歩き続けた。
僕は、トロデーン王国の兵士なんだ。何よりも、王様と姫のことを一番に考えなくちゃならないのに……。
なんとかベルガラックまで辿り着いた時には、すでに日が傾いていた。宿屋のふかふか布団に腰掛ける。ヤンガスはそのままベッドに俯せた。
「うあ〜、死ぬかと思ったでげす……。」
「ごめんよ、ヤンガス。無理させたね。」
僕の意地っぱりに付き合わせてしまった。
ゼシカがククールを支えるようにして部屋に入ってきた。彼はまだ顔色が悪い。
「王とミーティア姫に、あたたかい飲み物を持って行ってくるね。」
気まずくて、僕は部屋を出た。背中にゼシカの視線を感じながら。