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DEAR PYCHOPATH
【サイコ その他小説】

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DEAR PSYCHOPATH−6−-3

 「・・・のぶ?ねぇ忍ってば」
 鈴菜の声でハッと我に返り、声のした方を見あげる。しゃがみこんでいる僕を、後ろから見下ろす形で彼女が立っていた。
 「何やっているの?ずっと座り込んだままでさ」
 「な、何でもないよ」
 「なぁんか今日の忍は変だな」
 仏頂面で僕の袖を引っ張りながら、彼女は一言もらした。「他の女だ」それを聞いてガクリときた。どこをどう解釈すればそんな答えにたどり着けるか、一度こいつの頭をかち割って中身を見てみたいものだ。
 「くっそぉ。どこの女ぁ!」
 さほど悔しそうのも聞こえない口調で、鈴菜が言った。
 「違うよ。女じゃないってば」
 けれど彼女の仏頂面はかわる事なく僕に向いている。まったく・・・この馬鹿たれは!と長いため息の後、
 「あのなぁ、僕が浮気するはずないだろ。そんなことお前が一番分かっているじゃないか?」
 鈴菜は口を尖らせた。
 「じゃあ」
 「ん?」
 「じゃああたしのこと好き?」
 「ん・・・そりゃ・・・ね」
 と、なんとかはぐらかす。そんなこと、恥ずかしくて、とてもじゃないが真面目に答えられない。
 「あいまいだな」
 つまらなそうな声で彼女は言った。
 「あたしはだぁぁいすきだよ、忍!」
 「こ、こら!鈴菜!」
 背中から抱きついて離れようとしない鈴菜を引きずりながら、やっとのことで防波堤へたどり着いた僕は、何とか彼女を引っ剥がすとそのうえに飛びのった。
足元が太陽の熱を吸い込んだコンクリートのせいで少し熱い。
 「落ちてもしらないよ」
 鈴菜かクスクス笑いながら僕を見あげている。
 「平気さ。下はすぐ砂浜だ」
 「そうだね」
 そう言って鈴菜が潤む瞳を細めるのを見た時、僕の心臓は一度だけ大きく鳴った。子鹿のようなその瞳は、他の何よりも、どんなものよりも愛しく感じられた。
許されるなら、この場で壊れる程何度も抱き締めて、そして剥製にでもして永遠に自分の部屋に置いておきたいくらいだった。
 しかし、と、思う。もしも僕が、結局サイコパスとして覚醒してしまったら、しかもそれが流の言うとおり、前世の意識の方が強かったりしたら・・・新しい僕は、その命が尽きるまでの間、この愛しい彼女に何も手出ししないでくれるだろうか。おそらく無理だろう。いや、確実に不可能なことだ。僕は絶対に彼女をこの手で殺してしまう。そう、夢に出た女の人のように。それだけは嫌だ。
鈴菜を傷つけるのだけは、たとえ神様に嫌われようともしたくない。そう考えると、僕は無意識のうちに二つの拳を握っていた。
 「なぁ鈴菜」
 「ん?」
 「もし僕が、何かで変わってしまっても、僕を好きでいられる?」
 「それが忍なら。ずぅぅと好きだよ」
 この柔らかな笑顔を、絶対に傷つけたくない。ずっと、酉那忍として彼女のそばにいたい。彼女を決して悲しませたりはしない!そう考えると、僕がこれから何をするべきが、それはもう決まっているようなものだった。とたんに、今まで曇っていた心が、嘘のように晴れやかになり、軽くなった気がした。
 「鈴菜」
 僕の呼びかけに、ほお杖をしている彼女が再び顔をあげる。気温とは関係なく、体温が何度か上昇していくようだ。僕は息を大きく吸い込み、吐き出すそれと一緒にさりげなく言った。
 「僕も、お前が好きだよ」



 日は沈みかけていた。
 赤々とした空が、何だか燃えているようにも見える。僕は流から借りていた車を、倉庫の前へ止めるなり、エンジンを切って地面へ降り立った。
 今の僕には、断固たる決心があった。もう誰にも止められないという程の絶対的なものだ。辺りは、静まり返っていた。時折、カラスか何かが飛ぶような音は聞こえたが、人の気配らしきものは何もない。僕が、力いっぱい倉庫のドアに蹴りを入れると、それはけたたましい音と共に開き、中にいる流たち全員を振り向かせた。
 「てめぇは」
 驚いた顔でチャールズが言った。
 「忍」
 流の表情は、ほんの少し優しく感じられた。
 「僕もやるよ。もう決めたんだ」


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